nancy wilson

ゴールデン・ウィークももう残りわずか。ステイホームを強いられてクサクサしている方も多いだろうが、自分は連休中〜連休明けの締切が結構あって、日々それを消化中。Light Mellow本の執筆も遅れ気味だけど、まぁ、適当にウサを晴らしながら取り組むしかない。今日のウサ晴らしは、ナンシー・ウィルソン。…と言ってもベテラン・ジャズ・シンガーではなく、ご覧の通り、ハートのウィルソン姉妹の美形・妹の方である。

…とはいえ彼女もキャリア45年だから、当然 経年変化はある。でも意外なことに本格的ソロ・アルバムはコレが初めて(99年に弾き語りライヴ盤『Live At McCabes' Guitar Shop』アリ)。そのあたり、気合いの入った初アルバムでも、趣味丸出しのお遊び作品でもなく、オリジナルと大好きな楽曲のカヴァーを用意して録音してみました、という至って自然な佇まいがこの人らしい。転居して環境を整えたばかりのホーム・スタジオで大好きなギターに囲まれて過ごすうち、まだ得体が知れなったCOVID-19への恐怖や先が見えないロックダウンの不安が徐々に癒され、彼女を楽曲制作へと向かわせたのだという。これもまた、コロナ・パンデミックのステイ・ホームがなければ生まれてなかったアルバムなのだ。

そもそもハートというと、<Never>や<These Dreams>、<Alone>といった産業/アリーナ・ロック系のイメージが強い。でも70年代の初期ハートは、姉アンのレッド・ツェッペリン愛と妹ナンシーのアコースティック・テイストがバランス良くミックスされ、動と静、大胆さと繊細さの調和が個性になっていた。日本デビュー盤となった3rdアルバム『LITTLE QUEEN』(77年)の中世/森ガール的イメージも、そのあたりから来ている。

このアルバムも、アコギのアルペジオでフォーキーに歌い始めるタイトル・トラック<You And Me>でスタートする。母親のことを歌った曲だが、"No reason to hurry, Don't need to worry"と歌っているあたりに、この作品の基本スタンスが滲み出ているようだ。<I'll Found You>や<Walk Away>、<We Meet Again>といったオリジナル曲は(曲作りのパートナー:スー・エニスとの共作含む)、 おおよそこのパターン。アコギやマンドリンなどオーガニックな弦楽器を鳴らしながら、パーソナルな内省的表現を試みている。自作曲でユニークなのは、まるきりチープ・トリックしているパワー・チューン<Party At The Angel Ballroom>。リズム隊がガンズ・アンド・ローゼスのダフ・マッケイガンとフー・ファイターズのテイラー・ホーキンスで、原曲はナンシーが参加したテイラーのソロ作の時に録音されたジャムだったとか。<Inbetween>もおおよそハートっぽくないライト・ポップなナンバーで、リズミックなウーリッツァー・ピアノが中期ビートルズ風のメロディをリードしていく。

また<The Dragon>は、同郷シアトルのグランジ・バンドでハートとも交流が深かったアリス・イン・チェインのレイン・ステイリーに捧げた楽曲。ハートでも何度となくトライしたが形にならず、ナンシーとリヴ・ウォーフィールド(プリンス&ニュー・パワー・ジェネレーション)がハートのサポート・メンバーと組んだプロジェクト:ロードケース・ロイヤルのアルバム『FIERST THINGS FIRST』(17年)で初出。今回はそのニュー・ヴァージョンになる。アコギのインスト<4 Edward>は、タイトル通り、昨年亡くなったエディ・ヴァン・ヘイレンへのトリビュート。ハートとヴァン・ヘイレンはかつて一緒にツアーしたこともあり、エディがナンシーのアコギ・プレイを賞賛。アコギを1本も持っていないと宣ったエディに、彼女がアコギをプレゼントしたというエピソードがあるそうだ。

しかし何より驚くのが、いくつかのカヴァー曲である。先行シングルに切られたブルース・スプリングスティーンの<The Rising>は、ある意味このアルバムのセンターに位置するようなサウンドで、豪放アメリカン・ロックにフォーキーなアンサンブルを乗せたスタイル。それを更に深化させたのが、サイモン&ガーファンクルの<The Boxer>。ナンシーのルーツとしては納得のチョイスだが、そのゲストがサミー・ヘイガーなのにはズッコケた。しかもコレがアルバムで一番ブッ飛んでる前述<Party At The Angel Ballroom>に続いて出てくるのがポイントで。緩急自在とは、まさにこのこと。更にリヴ・ウォーフィールドをフィーチャーしたのが、クランベリーズの<Dreams>。何故にナンシーがこの曲を?と思ったら、彼女の夫ジェフ・バイウォーター(FOX TVの重役)による提案なのだそうだ。

冒頭に書いたように、通して聴くとナチュラルに聴き通せるが、楽曲ごとの振り幅はかなり広い。でもオリジナルとカヴァー曲、そしてその間を有機的に繋げるような楽曲の存在があるから、支離滅裂には感じない。そして何より、そうやって一歩引いたところで自分を輝かせてきたのが、ハートにおけるナンシーだったと痛感させられる。常に傍らにギターを携えて、「こんなの、できちゃったんだけど…」と言ってるような、そんなスタンスがステキな初ソロだ。