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今日も引き続き、7月末に登場したユニバーサル・ミュージックの廉価盤シリーズ【初CD化&入手困難盤復活!! 〜ブラジルが生んだ秘蔵の名盤〈'50s~'00s〉】からで、今回の目玉的リイシューとなるイヴァン・リンスの初期2枚。71年のデビュー・アルバム『AGORA…(イヴァン・リンス登場+2)』と、2作目『DEIXA O TREM SEGUIR(汽車を見送りなよ+1)』で、日本では初CD化。このシリーズで問題となっているリマスターは、海外でCD化された時の02年マスターを使用。20年近く前とはいえ、リマスター技術が大きく進化した90年代後半以降のデジタル・リマスタリングなら、カナザワ的には充分 許容範囲にある。

さて、イヴァン・リンスというと、都会的でソフィスティケイトされ独特の美しいメロディを紡ぐシンガー・ソングライターというイメージ。クインシー・ジョーンズ関連のアルバムでも、デイヴ・グルーシン&リー・リトナーとのコラボでも、そういう穏やかな指向だったし、彼自身のアルバムを聴いてもその印象は覆らない。時にマグショットなジャケもあって、ハッとさせられるが、60〜70年代のブラジルは軍事政権下にあったワケで、そういう主張があっても当然と言える。でもやっぱりイヴァンの歌は、ソフトで優しいのがパブリック・イメージだ。

けれど初期のイヴァン・リンスはちょっと違う。とりわけ1作目は、なかなかソウルフル。イヴァン自身も熱唱気味で、軽くシャウトしていたりする。まるっきり<Toght'n Up>した<Hei, Voce>なんてファンキー・チューンも。そもそもジャケ写の表情だって、後年の優しい顔とは別人みたい。もちろんイヴァンらしいメロディを湛えた楽曲も多くあって、エリス・レジーナで大ヒットした<Madalena>も入っている。けれど同時に時代的背景からか、サイケな香りが漂うマテリアルも。何れにせよ、後々のイヴァンとは異なる熱さを孕んでいるのだ。

ところが1年も経たずして出した2作目は、これまた空気感が違っている。前作同様に熱さはあるが、少しだけ内側に向かっている、というかな。前作の穏やかな部分にフォーカスを当てつつ、それが70年中盤のRCA期に繋がって行くのが分かるのだ。そうした変化は、どうもイヴァンのデビューを後押ししてきたM.A.U.(大学芸術運動)との関係悪化が反映したらしく…。すなわちブラジルの伝統音楽を追求させたいM.A.U.と、北米寄りのポップ路線に傾くイヴァンの確執が透けて見えるワケだ。これによって、イヴァンをバックアップしていたTVグローポが彼に背を向け、大きなメディアを失くしたこの2作目は、デビュー盤の1割程度しか売れなかったという。失意のイヴァンは音楽を止めることを決め、一般企業の面接試験に臨んだ。だがその試験官がたまたま音楽好きで、面接相手が<Madalena>の作者であることに気づき、「あなたの居場所はココじゃない」とばかりにイヴァンを諭したことから、再び音楽の世界に舞い戻るコトができたという。

そんなドラマを秘めたイヴァン・リンスの最初期2作品。イイ時期のイヴァンに親しんでいる人は、もう一歩、ココまで踏み込んでみては?