tom petty_angel dream

トム・ペティが鎮痛剤の過剰摂取で急死して、早4年近く。昨年はキャリアを通じての最高傑作との呼び声も高い、ソロ名義の94年作『WILDFLOWERS』の拡大版『WILDFLOWERS & ALL THE REST』を発表。元々トムはそれを2枚組で出そうとしていたが、レコード会社がビジネス的理由でそれを許さず、仕方なしにシングル・アルバムにシュリンクしてリリースした経緯がある。それを計画通りの2枚組に戻し、なおかつ当時のライヴを含む4枚組のデラックス・エディション、更にマニア向けのオルタナ・テイク満載5枚組も作った。今回リリースされた『ANGEL DREAM』は、その『WILDFLOWERS & ALL THE REST』の拡大部分に関係している。

…というのもこのアルバム『ANGEL DREAM』は、96年、すなわち『WILDFLOWERS』の次に出たサウンドトラック・アルバム『SHE'S THE ONE(彼女は最高)』のリワーク・アルバムなのだ。

正確には、『WILDFLOWERS』はトム・ペティのソロ、『SHE'S THE ONE』はハートブレイカーズを率いてのバンド・アルバムと名義が違う。でも実はそこに、名義では単純に割り切れない密接な関係があって。つまり、『SHE'S THE ONE』はトムが映画の脚本を読んでから曲作りを始めたらしいのだが、スケジュールは映画公開に合わせてアルバムを仕上げねばならず、時間的制約が大きかった。そこで曲が足りくなった分を、『WILDFLOWERS』の時にお蔵入りさせてしまった中から引っ張ってきた。『SHE'S THE ONE』にリンゴ・スターやカール・ウィルソン参加の楽曲があったが、それって実は『WILDFLOWERS』のセッションで録ったものだったのだ。

しかし拡大版の『WILDFLOWERS & ALL THE REST』が出たことで、『SHE'S THE ONE』に回された『WILDFLOWERS』セッションの楽曲数曲が本来あるべきところに移動。何故か両方に入っている楽曲もありつつ、今回空いたところに別の蔵出し曲を持ってきた。それが未発表曲2曲と、J.J.ケイルの未発表カヴァー<Thirteen Days>、収録曲<Supernatural Radjio>の別ヴァージョンなど。

『SHE'S THE ONE』という作品は、サントラではありつつも、完全にハートブレイカーズのオリジナル・アルバムとして通用するチカラの籠った内容。その理由は、名盤『WILDFLOWER』を手掛けたリック・ルービンが、引き続きプロデュースを受け持ったコトが大きい。 バンド名義の前作というと、ジェフ・リンがプロデュースした『INTO THE GREAT WIDE OPEN』で、コレは賛否が大きく割れたアルバムだった。作品としてはよくできているが、バンド全員でスタジオ入りして、セーの、で録るのではなく、個別にスタジオに入ってジェフ主導でダビングを重ねていく手法。それってバンドとしてどうなのよ、というワケである。でもそこはバリバリのロック・アルバムを手掛けてきたルービン。彼なりのやり方で、バンド本来の息吹きをアッサリ蘇らせた。

そもそも『SHE'S THE ONE』が出た当時、ルシンダ・ウィリアムスやベックのカヴァーが話題になったし、<Zero From Outer Space>がボブ・ディラン調のロックン・ロールなのも喜ばれた。でも今回追加されたJ.J.ケイル楽曲は、もうディラン度120%。その上でアルバム全体を再構成しているから、俄然 面白味が増している。2ヴァージョン入っていたフォーキーなタイトル曲をひとつ冒頭に持ってきて、残ったテイクはパスし、未発表のまま眠っていた同曲のアコギ・インスト版をエピローグに。そうしたコトでサントラ色を払拭し、ハートブレイカーズのバンド作品であることをアピールした作りになっている。

そういや『SHE'S THE ONE』には、リンジー・バッキンガムもゲスト参加していたな。反対に最近活動を再開したフリートウッド・マックのツアーでは、スティーヴィー・ニックスにバンドを追い出されたリンジーの代わりに、ハートブレイカーズのマイク・キャンベルがギターを弾いている。何だかなぁ…