harada yoshio

ワイルドな演技で人気があった原田芳雄(2011年没)は、シンガーとしても多くの実績を残している。個性派俳優だけに歌モノ・アルバムも企画色が強い傾向だったが、この83年作は、当時のヤング・カルチャーに寄り添う狙いだったか。その『EXIT』なるアルバムが、先月タワーレコード限定、2021年最新リマスタリングで初CD化された。

オープニングのシングル曲<ニューヨーク漂流>が、いきなり佐野元春か原田芳雄か、っていうほどのブルース・スプリングスティーン引用曲でノケぞるけれど、2曲目<Never Change Your Mind>が超ド級のアーバン・メロウで絶句。3曲目<スリル+1>もなかなかイイ曲で、慌ててクレジットをチェックすると、前者はローレン・ウッド、後者はクリス・モンタンの提供曲。歌詞にはもちろん日本詞を乗せていたが、この2曲は初めて聴いた時にたいそうブッ飛んだのを思い出す。

他にもスティーヴ・ドーフが良質のバラードを書いていたり、ロブ・ガルブレイスがマージー・ジョセフに提供した<I Been Down>をレゲエで演っていたりと、AOR的に気になるトコロがチラホラ。何せ、アレンジが椎名和夫と新川博というアーバン・ポップ職人たちで、参加ミュージシャンもその2人を囲むように、伊藤広規 ・長岡道夫(b)、菊地丈夫(ds)、数原晋・兼崎順一(tp)、中村哲 (sax, kyd)となかなか。これで妙チクリンなモノができるワケがない。ただ忘れちゃイケないのは、フロントはあくまで原田芳雄、ということ。だから正調AORやシティ・ポップのアルバムになるハズがない。スプリングスティーンあり、ロックン・ロールあり、ボブ・マーリーあり、という中でAOR/シティ・ポップ・アプローチの曲も何曲か、という内容だ。つまり、決してシティ・ポップとかJ-AOR名盤には数えられない。でもCDの再発価格なら、<Never Change Your Mind>と<スリル+1>の2曲とバラードだけでも充分な価値があると思う。

まぁ、最近の世界的シティ・ポップ・ブームで、かのTHE WEEKNDが亜蘭知子をサンプリングしちゃう時代になった。それ自体はホント素晴らしいコトだし、シティ・ポップの魅力が拡散していくのは、とても嬉しい。でもだからと言って、各メディアや表面しか見ないで分かった風なコトを書いているエセ音楽ジャーナリストに感化されて、外国人目線のシティ・ポップ観を真に受ける必要はない。フロア目線、グルーヴ重視、ヴェイパーウェイブ由来の80's指向は結構だと思うし、それが若い世代にとってのシティ・ポップへの窓口にはなるだろう。

でも、そこで騒いでいる外人たちの多くは、所詮、日本語なんて理解してないのだ。アンコン的な<Plastic Love>、<真夜中のドア〜 Stay With Me>、The Weekndが取り上げた<Midnight Pretender>にしても、みんな英語がキーワード。タイトルやサビで英語を連呼してたりする。しかしユーミンは、海外ではほとんど無視。中古アナログ・ショップに行けば、ユーミンのレコードは帯付き美品でも以前と大して価格は変わらず、ワンコイン+アルファで購入可。でも吉田美奈子や大貫妙子は、その10倍、20倍の値づけである。両者の音楽にそれほどの差があるとは、とても思えない。

だから、それに引っ張られて、日本のポップス史に於るシティ・ポップ感が書き換えられてしまうとしたら、それは大きな間違いだ。入り口として、あるいは時代の傾向としてはアリでも、所詮は外野の出来事。同じように、シティ・ポップとアイドル歌謡の線引きも必要だろう。サウンド的に地続きであっても、その文化的背景、活動フィールドはまるで違う。ネット・リサーチ中心の海外DJやマニア、コレクターたちには、そこまで見るコトはできない。

逆に言えば、シティ・ポップに関しては、日本はガラパゴスでイイのだ。イヤ、積極的にガラパゴスであるべきなのだ。だって日本は、シティ・ポップの本家本元・発信元なのだから。

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