caetano veloso_meu coco

ブラジル音楽はあまり熱心に聴いていないけれど、これはちょっと楽しみにしていた。重鎮カエターノ・ヴェローゾの約10年ぶり、ソニー・ミュージック移籍第1弾となるニュー・アルバム『meu coco』。その意味は、“僕の脳ミソ”。それでこういうアートワークなのね。今年の8月で80歳になるカエターノだけど、頭の中は硬直することなく、今も目一杯 柔らかアタマなようで…

紙ジャケや廉価再発もあって、カエターノのカタログはおおよそ揃えたけれど、後追いでそれほど深く聴き込んだアルバムはないのだが、いつもその声の魅力にグイッと引き込まれ、気づくとアルバムが終わっている…。そんな経験を何度もした(居眠りしてるわけじゃないぞ…苦笑)

そうしたら、この新作は、発声や声の表情に創造性と美意識を込め、“声の音楽性”を極めたアルバムだという。基本的なサウンドは、ギターやピアノの弾き語りに、必要最小限の伴奏やプログラムによるリズムを付けただけ。でもその音数の少なさが、逆にカエターノの歌声の深遠さを際立たせる。何処までも透明で、甘美なのに研ぎ澄まされていてシャープ。

どの曲も深いんだけど、自分が一番度肝を抜かれたのが<GilGal>という楽曲。実はジルベルト・ジルとガル・コスタから取った曲名だが、これが何とヘブライ語で “神社の王” を意味していたとか。まるでお寺さんの護摩法要の現場に紛れ込んでしまったかのように、鐘と太鼓だけをバックにカエターノが詠々を歌う。だから次に来る、アルバム唯一のオーケストラ入りバンド・フォーマットの<Cobre>の美しさが際立つのだ。

正直カエターノをスゴさをよく理解できていない自分だけれど、理屈抜きに惹かれてしまう内宇宙がココにある。自分にとっては、今のところ、意味不明の名盤。