jethro tull_zealot gene

折角の週末だというのに、コワいジャケットでスミマセン… でも内容はそこまでオドロオドロしくなく、重厚ながらも叙情的だったりジェントルだったりで、アートワークのイメージよりも遥かに聴きやすく。ブリティッシュ・ロック界のレジェンド、ジェスロ・タルの18年ぶりのニュー・アルバム『THE ZEALOT GENE(ザ・ゼロット・ジーン)』。ジャケに写る人相が悪いオッサンは、タルを率いるイアン・アンダーソン。かつては樵(きこり)みたいな風貌で、フルートの一本足奏法を披露していた彼も、ずいぶんコワモテのジジイになった。

一般的にはプログレにカテゴライズされるタルだけど、最初の頃はブルースを引き摺っていたし、ブリティッシュ・トラッドやフォーク色も強い。寓話的でコンセプチュアルな曲作りや深遠なサウンド、パントマイムを取り入れたシアトリカルなライヴ・パフォーマンスなどから、プログレに括られるようになったが、グラミー賞にHR/HM部門が新設された89年、そして第1回受賞者にタルが選ばれ、物議を醸したことも。この新作でもいきなりヘヴィ・メタルしたギター・ソロが飛び出してくるが、これは一緒のシャレですかね?

最後のスタジオ・アルバムを出した03年以降も、ライヴ・ツアー中心に活動を続けたタル。しかし10年代に入るとライヴも中断。14年にはイアンがバンドの無期限活動停止を発表し、ソロ活動へ移行した。しかし18年になって、68年の1st『日曜日の印象(This Was)』50周年を記念したツアーを開催。その前後から、この新作『THE ZEALOT GENE』に取り組み始めていたらしい。聞き慣れないタイトルは、“狂信者の遺伝子” という意味で、聖書の一節と繋がっているとか。図らずも、世界を絶望の淵へ追いやったコロナ禍があり、現代社会への警鐘と人間の慈愛・寛容を謳う傾向が強まった。往年のファンであれば、宗教や信仰と社会問題を結びつけた71年の傑作『AQUALUNG(アクアラング)』を思い出すだろうが、宗教へのスタンスは当時とはまったく違ってきている。

トラッド、フォーク、クラシック、オペラに、ケルティックなテイストまで混ぜ込んだスタイルは、間違いなくタルのシグネイチャー。まったくもって新しいサウンドではないが、それでいて埃をかぶった古臭さは感じない。反対に、軽いばかりのディスポ・ミュージックが蔓延る現代に於いては、数少ないインテリジェンスを持った音楽でもある。キング・クリムゾンやイエスあたりの現役ビッグ・ネームが、過去のキャリアをなぞるような動きしか見せてくれない中、ちょっと脇役っぽいポジションのタルがココまでやるとは。アートワークで損してる感はあるものの、昨年暮れに登場したPFM新作『 I DREAMED OF ELECTRIC SHEEP(電気羊の夢を見た)』(当ブログ記事はここから) と併せて、プログレ好きなら要チェックよ。