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AORトリオのGIGことグッドラム・イニス・ガイチが、日本未発だった1stアルバム『BRAVE NEW WORLD』(18年)と最新の2ndアルバム『WISDOM AND MADNESS』の同時リリースで、拙監修【Light Mellow Searches】from P-VINE より本邦初登場。『BRAVE NEW WORLD』は元々、名画『2001年宇宙の旅』に登場するスター・チャイルドを髣髴とさせる新人類的アートワークで目を引いたが、今回はランディ・グッドラムの意向により、日本で新たに制作した新装ジャケに変更され、2枚で対になるようなイメージ戦略がとられた。

改めて紹介しておくと、GIGは、アダルト・コンテンポラリーやポップ・カントリー方面で活躍する3人が集まったソングライターズ・ユニット。ランディ・グッドラムは、TOTOやシカゴ、マイケル・マクドナルド、ジョージ・ベンソン、デバージ、スティーヴ・ペリー、アン・マレー、ケニー・ロジャース、イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリーら多くのアーティストにヒットを提供し、昨年発表した6枚目のソロ・アルバム『RED EYE』も評判を呼ぶ。もう一人の “G” ブルース・ガイチも、マドンナ<La Isla Bonita>やリチャード・マークス<Don't Me Nothing>などのヒット曲を書き、セッション・ギタリストとしても活躍。少し前までピーター・セテラのツアー・バンドでプレイしていた。GIGの“I”はデイヴ・イニス。ポップ・カントリー系の人気バンド:レストレス・ハート出身で、自身のバンドのほか、ポインター・シスターズやジョージ・ベンソン、ケニー・ロジャースなどに楽曲提供している。そうした玄人好みの職人ソングライター集団がGIGなのだ。

1st『BRAVE NEW WORLD』についての詳細は、こちらから当時のポストをご覧いただきたいが、実は1曲だけ、2018年オリジナル盤との差し替えがある。ウォーレン・ウィービーのヴォーカル曲<All l 'll Ever Need>が外され、代わりにランディの弾き語りベースによる<Mars, Last Week>が収録されているのだ。元々はGIGは、曲作りのために自然発生的に誕生したもので、アルバム・リリースは想定していなかった。でも3人の間にケミストリーが生まれ、れっきとしたプロジェクトに進化したことから、作品化を模索。そこに手を挙げたのが、スペインのAORレーベルContante & Sonanteで、その発売条件がウォーレンが歌っていたこの曲をリテイクし、アルバムに追加することだった。だからこの曲だけは、GIG側に楽曲の使用権がない。

その代わりに収められた<Mars, Last Week>は、同発の新作『WISDOM AND MADNESS』に、日本でのライヴ・ヴァージョンがボーナス収録されている。そのオリジナル・スタジオ・テイクがコレなのだ。ランディに拠ると、「本来は僕のソロ・プロジェクトの候補曲として録音したマスター。コットン・クラブで演奏して、ブルースとデイヴが気に入ってくれたので、GIGプロジェクトの追加曲として用意した」そうである。

この“コットン・クラブで演奏”と言うのは、2013年11月に丸の内コットン・クラブで開催された『AOR TOKYO SESSION Vol.2』のこと。ブルース・ガイチ&ジェイニー・クルーワー夫妻をホストに、もう一人ゲストを加えてパフォーマンスするAORライヴ・イベントで、その時のゲストがランディ、サポートkyd奏者がデイヴ・イニスだった。ちなみにVol.1のゲストはマーク・ジョーダン、Vol.3はトミー・ファンダーバーク。イベント名は筆者提案。
「あのギグが僕たちの初めてのライヴだった。けれど実際はその数ヶ月前から始まっていたね」(ブルース)
日本公演がキッカケでGIGが結成された、と書いた音専誌があったが、正確にはブルースの言葉の通り。『AOR TOKYO SESSION』は始まりではなく、GIGとしてのフォーマットが固まるプロセス、いわば進化のワン・ステップだった。実のところそのギグは、現時点では最初にして最後のライヴ・パフォーマンスになっている。

GIGのサウンドの特徴は、ブルースのアコースティック・ギターをベースにした知的な楽曲。ランディはそれを、“インテリジェント・アコースティック・ポップ”と表現した。
「本物のミュージシャン、本物の楽曲、そして唯一無二のトラック。僕たち3人のコンビネーションと、それぞれの音楽性から生み出される音楽だからね」
創作スタイルも一貫していて、ブルースとデイヴがトラックを作り、そこにランディがメロディと詞を乗せていく。しかし曲作りの面で、ちょっとした変化もあった。1stは ほぼ全曲が3人の共作だったのに対し、この新作ではランディとブルースによるナンバーが中心。3人で書いたのは<Pluto>だけである。
「デイヴがコロナから家族を守ろうと、テキサスへ引っ越してしまったからね」(ブルース)
「GIGはブルースの心の籠もった素晴らしいギター・ワークの貢献なしには存在しなかったし、実現しなかった」(ランディ)

『WISDOM AND MADNESS』の主要ミュージシャンは、前作『BRAVE NEW WORLD』にも参加したキース・カーロック(ds)に加え、ベースでジョン・パティトゥッチ、サックスでブランドン・フィールズなど。元々は10曲収録だが、そこに前述した<Mars, Last Week>のライヴ、それとランディとブルースが80年代に書いたと言うデモ・トラック2曲がボーナス収録されている。この2曲のヴォーカルはランディではなく、ダグ・ゲッチャルという無名のセッション・シンガー。だがバックグラウンド・シンガーが、何とティモシー・シュミットなのだ。振り返ればブルースは、かつてティモシーのソロ作でプロデュースを務めるなど、かなりディープなコラボレイトを行なっていた仲。どうせならティモシーに歌ってもらえば良かったのに、と思うが、当時は契約の問題とかあったのだろうか? そういえばティモシーは、エリック・カルメンと共に、実現せずに終わった『AOR TOKYO SESSION Vol.4』のゲスト候補にも名が挙がっていた。ちょうどイーグルスの再編〜ツアーが組まれる前のことである…。