marc jordan_amy sky

AOR名盤『MANNEQUIN』や『BLUE DESERT』でお馴染み、ロッド・スチュワートやダイアナ・ロス、シカゴ、ボニー・レイット、マンハッタン・トランスファーや竹内まりやにも楽曲提供しているカナダ人シンガー・ソングライター:マーク・ジョーダンと、その奥様でやはりシンガー・ソングライターとして活躍しているエイミー・スカイの夫婦が、結婚34年にして初のデュオ・アルバムを発表した。エイミーは日本ではあまり知られていないが、やはりダイアナ・ロスやハート、メリサ・マンチェスター、アン・マレーなどに幅広く曲を書いていて。とりわけオリヴィア・ニュートン・ジョンの信頼が厚く、2016年にオリヴィア、ベス・ニールセン・チャンプマンの3人による共演アルバム『LIV ON』を出している。96年からソロ・アルバムをリリースしていて、その数すでに10枚近く。プロデューサー、演劇、TV司会者としてのキャリアもある才媛なのだ。

元々お互いのアルバムに参加したり、共同でCafe Recordsなる自前レーベルを運営するなど、日本風に言えばおしどり夫婦な2人。共演作を出すというニュースを知った時は、「やっとその気になったか…」なんてほくそ笑んでしまった。ただし、その内容が気になったのも事実。AORから離れたマークは、詞で評価されたためか、90年代以降は渋めのジャジー&フォーキー・スタイルのシンガー・ソングライター表現に向かっていたし、エイミーも最初のソロ何枚かはAOR寄りだったが、その後もっとオーソドックスなMORやポップ・カントリー風になり、追い掛けるのをやめてしまった。それだけに、一抹の不安があったのだ。

でもそれは、思ってもみなかった方法で解決された。いきなりトム・ペティの<Free Fallin'>で始まるように、アルバム半分はカヴァー曲で、ビーチ・ボーイズ<God Only Knows>、スモーキー・ロビンソン&ミラクルズ<Ooh Baby, Baby>、ボニー・レイット<You>、ウィリー・ネルソン<You Were Always On My Mind>、最近ではジョン・レジェンドが歌っていたウィンター・ラヴ・ソングのスタンダード<Baby It's Could Outside>、そしてリチャード・トンプソン楽曲でやはりボニー・レイットが取り上げた<Dimming Of The Day>など。そこにポップで完成度の高い先行リード曲<Long Shot>や、子供のために書いたという<I’ll Give You Wings>など、エイミー楽曲を数曲混ぜ合わせた。うち<Water From Stone>は、以前の彼女のソロ作から。マークの書き下ろしは1曲もなく、唯一、13年作『ON A PERFECT DAY』から<I Have No Doubt>をセルフ・リメイクしているだけである。

ただこの手法は、前作『BOTH SIDE』で、ホーギー・カーマイケル、ジョニ・ミッチェル、ルー・リード、ローリング・ストーンズ、カーティス・メイフィールドなどの曲を取り上げたことを発展させたもの。マーク&エイミー夫妻が一緒に無理なく歌えて、尚かつそこから相乗効果が生まれるようなセンを狙った、ということだろう。それでいてアルバム全体の流れは、かなりオーガニック系。フォーキー&カントリー色もあって、言わばアメリカーナ的なのに、埃っぽさや土着感は感じさせず、アコースティック楽器の繊細さ、凛とした響きや緊張感を漂わせる。それがカナダのテイストなのか、米国産みたいにカラッとした大陸的陽気さではなく、極寒の国ならではのクールなインテリジェンスがある。そのうえで見事、デュオ・アルバムとして聴かせるツボを押さえているのだ。それこそ、あれ?マークってこんなに歌うまかったっけ?なんて瞬間も…

バックにはそれほどの有名どころはいないが、ダン・ダグモア(pedal Steel)、シェーン・フォンテイン(g / ピーター・バラカンの弟)、マット・ローリングス(kyd)、ジョー・シャーメイ(b)、リッキー・ファター(ds)、ヴィクター・クラウス(wood b / アリソン・クラウスの弟)などの名が。なるほどサウンドが見えてくるような並びである。そうそう、2人の愛娘でソロ作もあるゾーイ・スカイ・ジョーダンもバック・ヴォーカルとして。

個人的には、ピアノとウッド・ベースを従えたマークが咽ぶように歌い始め、エイミーが入ってジワジワと盛り上げ、後半はゆったり壮大なオーケストラに包まれていくような<God Only Knows>に感動。スタイルはAORじゃないけど、まさにオトナのために作られた好作です。