jun aoyama

これはなかなか嬉しいリイシュー。稀代の名セッション・ドラマーで、2013年に亡くなった青山純の、貴重なワンナイト・セッションのライヴ盤復刻だ。彼は11年8月に教則DVD『一つ打ちの真髄』を発売し、そのリリース記念を兼ねてのセッション・ライヴを、翌9月18日に代官山のライヴ・ハウス『晴れたら空に豆まいて』で開催した。その時の模様は映像作品として発売されたが、サスガに最近は入手困難。今回その映像作品のオーディオ・トラックをリマスターし、高音質盤で復刻したのである。

青山純といえば、山下達郎、竹内まりやを筆頭に、MISIA、B'z、井上陽水、中島みゆき、渡辺美里、徳永英明など、サポートしたシンガーは数知れず。V6やKinki Kidsなどのジャニーズ系やアイドルの仕事も多く、プリンセス・プリンセスのレコーディングのようにノー・クレジットでプレイした例もある。その一方で、ザ・スクエア(現T-SQUARE)やプリズムなど人気フュージョン・グループにもメンバーとして参加するなど、キャパシティの広さでも定評があった。教則DVDのタイトルが『一つ打ちの真髄』というように、手数は少なく、グルーヴ勝負。しかもドッシリと重量感があって、まさにリズムの大黒柱を形成する。それこそ16ビートの曲でも8ビートのノリを感じさせるような、大らかさと安定感。それでいて、グルーヴの芯は適度にハネているから、推進力のあるノリが生まれる。それに適応能力の高さ、豊かな包容力があったから、タツローさんが手放さなかったのだろう。氏のライブ活動休止期間が長引いた要因のひとつは、体調を崩してキレ味鋭いドラムが叩けなくなった青純の代わりが見つからなかったから、とも噂されている。

そんな往年の青純の主導ライヴならば、きっとイケイケのジャズ・ファンク系インスト・セッションが聴ける、そう期待する方も多いだろう。でも当人は、自分をロックな人間と言って憚らない。何をやってもロックのニュアンスが前に出てくる、というのだ。それでも歌モノやブラック・ミュージックも好きだから、そのミックスが自分の個性、と言い放つ。フィルにプログレの要素が入って、バック・ビートは重い16。それが青純スタイルだと。

この時集められたメンバーは、不動の名コンビ:伊藤広規(b)に、KAZ南沢(vo,g)、エルトン永田(kyd)、今 剛(g)、マック清水(perc)というラインアップ。演ってる曲も、インストは今が持ち込んだ2曲だけで、10曲中8曲がKAZ南沢が書いたロック系ヴォーカル・ナンバー。彼はスクール・バンドに籍を置いたり、初期バブルガム・ブラザースのリーダーだった人で、ハワイ暮らしも長かったそう。だから音のテイストも本格的。分かりやすく形容するなら、良質な和製スワンプ・ロックが満載で、デレク&ザ・ドミノスやオールマン・ブラザーズ・バンド、デイヴ・メイスン、レオン・ラッセルあたりに通じる。つまり青純は、丁々発止のインタープレイなどではなく、心地良く歌が立ったバンド・サウンドを演りたかったのだ。パラシュートのイメージが強い今さんも、元々はPANTA & HALでシーンに登場したワケで、ここではバリバリのロック・ギターを思う存分弾き倒す。こういう今さんのライヴ音源、他にはあまりナイはずだ。

初めてこの音源に接する人だと、最初は青純のセッションマン的イメージと、ロックのアンサンブルでグイグイ煽る実像にギャップを感じるかもしれない。でもライヴの現場でしか見せなかったようなロック・ドラマーとしての彼が直に感じられるのだから、コレは貴重。そのドラミングの懐の深さを、この熱きライヴ・フォーマンスから感じ取ってほしい。