今や大御所ジャズ・シンガーのサリナ・ジョーンズが、81年に東京でレコーディングしたスタッフとの共演による名作『MY LOVE』が、タワーレコード限定のSA-CDハイブリッド仕様で復刻。オーディオ評論家である和田博巳氏監修の下、解説を書かせて戴いた。オンタイムで愛聴したジャズ・ヴォーカル名盤だけど、ライター目線でじっくり聴き込んだコトはなかったから、ちょっと新鮮な気持ちになった。
サリナ・ジョーンズことJoan Elizabeth Shawは、エラ・フィッツジェラルドと同じヴァージニア州ニューポート・ニューズ出身。公式には1944年生まれとなっているが、どうやら30年代生まれらしい。本名ジョーン・ショウ名義で、40年代からビッグ・バンドのシンガーとして歌っており、50年代にはいくつかソロ・シングルを出している。61年にエピックから初アルバム『SINGS FOR SWINGERS』を発表し、著名ジャズ評論家レナード・フェザーに称賛された。65年にツアーで英国やスペインを訪れ、ロンドンのロニー・スコッツ・クラブで長期公演を敢行。これが成功したこと、人種差別の激しい米国での活動に限界を感じていたことなどから、これを機に英国移住を決めている。
同時にサリナ・ジョーンズに改名。これは、敬愛するサラ・ヴォーンとリナ・ホーンから拝借したもので、69年以後コンスタントにアルバムをリリース。ヨーロッパ各国やアフリカ、南米、アジアなどの主要クラブで公演し、英欧ではTVやラジオ・ショーを持つほど高い人気があった。しかしクロスオーヴァー/フュージョンが勃興するとスタンダード・ジャズは低迷し、サリナもディールを喪失してしまう。
それを救ったのが、面白いコトに、融通は効かないのに幅だけはシッカリ利かせていたオード・ジャズ・ファンの多い日本で…。78年の初来日以降、ほぼ毎年ツアーを行なうほどの高い評価を得た。彼女ももちろんスティーヴィー・ワンダーやサイモン&ガーファンクル、キャロル・キング、ビリー・ジョエルなど、いわゆるポップ・ソングを数多くレパートリーにしていたが、サリナの場合はあくまでジャズがベース。そこに無理なくポップ・ソングを持ち込むというバランス感で好感を得たのだ。
そのサリナの代表作が、スタッフ(マイナス1〜ダブル・ドラムの一角クリス・パーカーが不在)と制作したこの『MY LOVE』。ちょうど両者の来日が重なったタイミングを捉えてのレコーディングで、アレンジはメンバーでもとりわけゴスペルに造詣が深いリチャード・ティー。彼のセンスがサリナの歌のコク深さを余すところなく引き出している。ティーはピアノだけでなく、サポート・ヴォーカルでも活躍。スティーヴ・ガッド、エリック・ゲイル、コーネル・デュプリーらの燻し銀のプレイも素晴らしく、彼らがサポートしていたポール・サイモンやロバータ・フラックに通じる味わいも感じられる。
タイトル曲はポール・マッカートニー&ウィングスの名バラード。スティーヴィー・ワンダー<Lately>も取り上げている。<Everyday>はティーの初ソロ作『STROKIN'』(79年)から。<Best Thing That Ever Happened To Me>と<Help Me Make It Through The Night>は共にグラディス・ナイト&ザ・ピップスが歌っていた。その後者を書いたクリス・クリストファーソンが、当時の奥方リタ・クーリッジと共演して歌った<Loving Arms>なども。<I Don't Want To Be Alone Tonight>はドクター・フックのカヴァー。カントリーやサザン・ソウルを意識したチョイスは、サリナのルーツに寄り添ったもので、唯一のジャズ・スタンダード<Teach Me Tonight>は思い切って超スロウに。ジャズとソウルの間を自由に泳ぐサリナをスタッフが的確サポート。程よくポップ・テイストをまぶしたのが成功したのだと思う。
以前から何度も高音質盤が出ているオーディオ的定番アルバムではあるけれど、これはその決定版と言えそう。廉価復刻を言い訳に、マトモなリマスターもしないままに出し直すリイシュー企画も多い昨今なれど、その辺に各メーカー、各企画の意識レヴェルが透けて見えるよう。それこそリスナー不在のまま、格差ばかり広がるのはどうかと思う。でもイイ録音の作品があって、それに相応しい高音質盤がシッカリ出るのは良いコトに違いはなく。デイヴ・グルーシンの傑作『MOUNTAIN DANCE』(80年)も同発。こういう作品が残されているのは、さすが老舗ビクターだな。
タワレコ企画|世界初SA-CD HYBRID化!JVC JAZZ MASTERPIECE SA-CD HYBRID SELECTION第1弾
同時にサリナ・ジョーンズに改名。これは、敬愛するサラ・ヴォーンとリナ・ホーンから拝借したもので、69年以後コンスタントにアルバムをリリース。ヨーロッパ各国やアフリカ、南米、アジアなどの主要クラブで公演し、英欧ではTVやラジオ・ショーを持つほど高い人気があった。しかしクロスオーヴァー/フュージョンが勃興するとスタンダード・ジャズは低迷し、サリナもディールを喪失してしまう。
それを救ったのが、面白いコトに、融通は効かないのに幅だけはシッカリ利かせていたオード・ジャズ・ファンの多い日本で…。78年の初来日以降、ほぼ毎年ツアーを行なうほどの高い評価を得た。彼女ももちろんスティーヴィー・ワンダーやサイモン&ガーファンクル、キャロル・キング、ビリー・ジョエルなど、いわゆるポップ・ソングを数多くレパートリーにしていたが、サリナの場合はあくまでジャズがベース。そこに無理なくポップ・ソングを持ち込むというバランス感で好感を得たのだ。
そのサリナの代表作が、スタッフ(マイナス1〜ダブル・ドラムの一角クリス・パーカーが不在)と制作したこの『MY LOVE』。ちょうど両者の来日が重なったタイミングを捉えてのレコーディングで、アレンジはメンバーでもとりわけゴスペルに造詣が深いリチャード・ティー。彼のセンスがサリナの歌のコク深さを余すところなく引き出している。ティーはピアノだけでなく、サポート・ヴォーカルでも活躍。スティーヴ・ガッド、エリック・ゲイル、コーネル・デュプリーらの燻し銀のプレイも素晴らしく、彼らがサポートしていたポール・サイモンやロバータ・フラックに通じる味わいも感じられる。
タイトル曲はポール・マッカートニー&ウィングスの名バラード。スティーヴィー・ワンダー<Lately>も取り上げている。<Everyday>はティーの初ソロ作『STROKIN'』(79年)から。<Best Thing That Ever Happened To Me>と<Help Me Make It Through The Night>は共にグラディス・ナイト&ザ・ピップスが歌っていた。その後者を書いたクリス・クリストファーソンが、当時の奥方リタ・クーリッジと共演して歌った<Loving Arms>なども。<I Don't Want To Be Alone Tonight>はドクター・フックのカヴァー。カントリーやサザン・ソウルを意識したチョイスは、サリナのルーツに寄り添ったもので、唯一のジャズ・スタンダード<Teach Me Tonight>は思い切って超スロウに。ジャズとソウルの間を自由に泳ぐサリナをスタッフが的確サポート。程よくポップ・テイストをまぶしたのが成功したのだと思う。
以前から何度も高音質盤が出ているオーディオ的定番アルバムではあるけれど、これはその決定版と言えそう。廉価復刻を言い訳に、マトモなリマスターもしないままに出し直すリイシュー企画も多い昨今なれど、その辺に各メーカー、各企画の意識レヴェルが透けて見えるよう。それこそリスナー不在のまま、格差ばかり広がるのはどうかと思う。でもイイ録音の作品があって、それに相応しい高音質盤がシッカリ出るのは良いコトに違いはなく。デイヴ・グルーシンの傑作『MOUNTAIN DANCE』(80年)も同発。こういう作品が残されているのは、さすが老舗ビクターだな。
タワレコ企画|世界初SA-CD HYBRID化!JVC JAZZ MASTERPIECE SA-CD HYBRID SELECTION第1弾
「これぞ名盤!」という旧譜の作品を、
Blue-spec CD2とかSHM-CDといった高音質CDで
楽しみたいというリスナーの声(要望)を、
各メーカーが無視してるのかどうかは
分かりませんが、少なくともリスナーとしては
「旧譜の復刻≒ちゃんとリマスターが為されているもの』という図式があると信じてる節があるので、
実は(案外)そうでもないと知った時に
愕然とするわけです。
結局はメーカーの思惑に絡め取られてる「だけ」
なんだなと。「高音質盤でリリースされる事≒多くの支持を集めた超名盤」という図式が
もっと一般化されなければ、
心ある音楽リスナーがどんどん減るんじゃなかろうか?と本気で懸念し始めてます。
リイシューの本来の意味を、
メーカー側がもっと本気で考えて戴きたいものですね。