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連日世間はWBCのショータイム(=大谷翔平)で盛り上がっているが、そこで思い出したのはスレイヴの代表作『SHOWTIME』(81年)。昨年暮れに新興再発レーベル:Iconoclassicから出ていたのだ。スレイヴはオハイオ州デイトン出身、オハイオ・プレイヤーズの弟分という立ち位置で、イケイケ・ファンクを聴かせる9人組大型グループとして77年にデビューした。岩石男のイラストをジャケにあしらったアルバムがあるなど、イメージは如何にも超弩級。メンバーも最大10人に膨らんでいる。でも70年代末から変化の兆しが表面化。このアルバムでは、言わば新生スレイヴを提示するカタチになった。アートワークもアース・ウインド&ファイアー風の洗練されたモノに。岩石男の前作『STONE JAM』(80年)と競うように、最高傑作に推す声も多い。

ここまでスレイヴを牽引してきたのは、オハイオ・プレイヤーズのメンバー血縁でもあるスティーヴ・ワシントンと、強力スラップでバンドのファンク・スタイルを鼓舞してきたベースのマーク・アダムス。そして3枚目『THE CONCEPT』あたりから、後にオーラを組むスターリナ・ヤングとカート・ジョーンズ、メンバーとは旧知のスティーヴ・アーリントン(ds,vo)が順次加入。よりソフィスティケイトされた音作りに向かう。ファンクを演ってもサウンドがカラッと乾いていたり、ビートがミディアムに抑えられたりしたのだ。その辺りのせめぎ合いが絶妙なバランスで同居していたのが、岩石男の『STONE JAM』である。

だがそこで分裂劇が起きた。ひと足先にスレイヴを抜けたカート・ジョーンズによる別働隊オーラの動きが本格化。スティーヴ・ワシントンもバンドを抜けてオーラの後見に立ち、両方で歌っていたスターリナはオーラに専念したのだ。だからこの『SHOWTIME』は、マークとスティーヴ・アーリントン主導で作られたことになる。もっとも音楽性の相違から対立、というのではなく、暖簾分けというか、本家・分家みたいな…

特に強力なのが、冒頭のファンク3連発。<Snap Shot>と<Party Lites>は共にシングルに切られ、それぞれR&Bチャート20位と6位をマークした。3曲目の<Spice Of Life>にしても、なかなかポップな出来で、都市型ファンクと呼ぶべき。そんな成果に気を良くしたか、アーリントンも本作を最後にスレイヴを脱退。自分のバンド:ホール・オブ・フェイムを従えてのソロ活動に向かっていく。

でもこの機にスレイヴの旧作を聴き直してみると、R&B首位/全米32位まで上がった出世曲<Slide>を筆頭に、ヒット曲の多くはどれも適度な洗練がしたためてあって…。超弩級のゴッついファンク・サウンドが身上というのは実はイメージ上の話で、実は結構フレキシブルな体質のバンドだったんだと再認識。ファンク・チューン多めの初期にしても、たまに混ぜるスロウ・ナンバーが美味、というレヴェルは超えていて、ミディアム、スロウ共に、彼らのもうひとつの魅力になっている。だから彼らがドラスティックに変化したというよりは、時代の趨勢に応じて音のバランス感や耳触りを変えていった、というのが正しいのかも。