yumin live

松任谷由実50th Anniversary Concert Tour『THE JOURNEY』@さいたまスーパーアリーナ2daysの2日目に足を運んだ。まぁ、とにかく、聞きしに勝るスケール感とステージ構成。圧倒的な舞台装置とライティングに度肝を抜かれた。ザッツ・エンターテイメント。純粋に音楽だけを楽しみたいなら、小さなハコで目を閉じて音に埋もれてしまえばイイ。けれど、ヴィジュアルも楽しめて、イマジネーションも刺激されて、それでいて場面場面ではシッカリと曲を聴かせることも忘れていない。ミュージシャンが創るエンターテイメントとしての、ギリギリ究極のバランス感。ほのかなメッセージがあっても、押し付けや独りよがりとは程遠く、すべてのファンのハートにコミットするシーンがチャンと用意されていた。

この日は12月まで続くアリーナ・ツアー54公演の3公演目。中へ入ると、海賊船を模した巨大なセンター・ステージが鎮座し、2本のマストがそびえ立つ。偶然にもアリーナのステージサイドから数列目の好位置で、ステージ上で火柱が上がると、熱さを感じてしまうほど。ただその分ステージ全景は見渡せないが、これは贅沢というモノだろう。バック・バンドはバンマス/kydの武部聡志以下、小田原豊(ds) 浜崎賢太(b)遠山哲朗(g)小林香織(sax,cho)佐々木詩織(perc)今井マサキ(cho)の7人。そして単に踊るだけでなく、シルク・ド・ソレイユ張りの空中ダンスを披露するダンサーたちが計9人。

シートにはフリフラと呼ばれるフラッシュライト(無線制御式 LEDライト)が置いてあって、それを腕時計のように巻くと、信号によって七色に発光する。これによって2万人超え(と思われる)のオーディエンスひとりひとりが光源と化し、曲に合わせて一斉に同じ色の光を発するワケだ。そもそもステージ上に組まれたムーヴィングライトの数もハンパじゃないが、この壮観な景観はコンサートとしては世界最大級だろう。ユーミンのライヴでは数年前から導入していたそうで、ファンにはお馴染みなのだが、自分的にはお初のシロモノ。ペンライトやサイリウムと違って、無線でステージライトと連動しているから、ステージだけでなく、アリーナ全体がライトショウの舞台になる。しかもそのライトの櫓(やぐら)がスルスル降りてくるし、海賊線中央の円形ステージは迫り上がるし。オマケに薄〜い円筒状の立体スクリーンが現れると、幻想的なプロジェクション・マッピリングが始まって。最新作『深海の街』をイメージさせるパートでは、レーザーショウや空中ダンスの頭上で、2匹のイルカが泳いでいたり…。

こういう場面では、ユーミンが強く影響されたという再結成ピンク・フロイドの凄まじいライヴ・パフォーマンスを思い出す。事実彼女が現在のようなエンターテイメントを目指すようになったのは、フロイドの88年の来日公演を観たのがキッカケだったとか。そして90年の『天国のドア』ツアーで、実際にフロイドのステージプランとライティングを担当していたマーク・ブリックマンを起用した。その時の演出メソッドが、現在も脈々と活かされている。ただ99年にスタートしたSHANGLI-RAツアーは、サーカスにスケート、シンクロナイズド・スイミングと音楽を融合させる試みで、個人的には音楽メインのモノとは捉え難く…。一般的には「世界でも類を見ないショウ」と賞賛されたが、4年おき3回で終わったのも、松任谷夫妻のやりつくした感、音楽ベースに立ち返る必要を感じたからだと思っている。

50周年だから、<あの日にかえりたい><埠頭を渡る風><やさしさに包まれたなら>といった名曲はもちろん歌われるが、かといって安易に往年の楽曲を並べ立てるワケではない。ストーリー性を持ってステージを進行させ、火炎もドライアイスも噴射するドラゴンに乗ったり。そのあたりはSHANGLI-RAの流れを汲んでいるようだけど、それもユーミンの歩みを踏まえてのファン・サーヴィスと考えればスッキリする。日本最大クラスのアリーナ会場ゆえ、ベースは少々残念な音だったけれど、ちゃんと何を歌っているかが聴き取れたのはさすがユーミン軍団。ホール・クラスでも「あれェ?」と思っちゃうヒトもいるからね。

個人的には、ソロ・デビュー時にちょっと仕事で関わり、昨今の女性サックス奏者ばやりの口火となった小林香織ちゃん、そして最近も懇意にしているコーラス佐々木詩織チャンがバックにいるのも嬉しく。とにかく、来年古希を迎えるユーミンが、世界でも類を見ないスケールのライヴ・パフォーマンスを、半年以上に渡って繰り広げる。しかも毎週末に18ヶ所計54本という規模感。これは自身最大規模のアリーナ・ツアーとなるそうだ。それが何より素晴らしく、ライヴ・コンサートの在り方、音楽エンターテイメントとは何ぞや、を語る上でも、一度は観ておく価値があると思うな。

どうかみなさん、揃って千秋楽まで無事に駆け抜けんことを。