pat metheny_dream box

2021年に『ROAD TO THE SUN』『SIDE-EYE NYC V1.IV』と2枚のアルバムを出したパット・メセニー、約1年半ぶりのニュー・アルバム。…といっても『ROAD TO THE SUN』は作曲家メセニーにフォーカスした変則的アルバムで、続くSide Eyeプロジェクトは、優れた新人ミュージシャンを発掘していくプロジェクト。…そういう意味では、自分が大好きだったパット・メセニー・グループ的ニュアンスのあった20年作『FROM THIS PLACE』以来か?と思いきや、どうもそれも違っているようで。

つまりこのアルバムは、パットがこの数年に私的に録り溜めていたギター・ソロの音源を元に、それと対話するようにギターを重ねた静謐な作品。普段は放って置かれるPC上のフォルダなのに、昨年のツアー中にふとフォルダを開けてみたところ、そこにお宝が眠っていたコトに気付いてしまったらしい。そしてツアーの空き時間や移動中にいろいろ探し、リスナーと共有すべきモノであると判断したそうだ。DREAM BOXというタイトルは、その小さなフォルダと、セミ・アコやフル・アコのような空洞を持つギターを “ハコもの” と呼ぶことから、そのダブル・ミーニングにしたらしい。

聴いて思い出したのは、パットがECMからデビューした時の『BRIGHT SIZE LIFE』(76年)。ああした透明感のある演奏、ギター・プレイを、スロウなバラードでシットリ聴かせる。おそらくは、ポッと浮かんだ楽曲アイディアを断片的に記録しただけのトラックがほとんどだろう。でも中にはフランク・シナトラで有名なジャズ・スタンダード<I Fall In Love Too Easily>、映画『黒いオルフェ』からボサ名曲<Morning Of The Carnival>(ルイス・ボンファ作)なんて楽曲も。ダウンライトを灯したホテルの一室で、ライヴの余韻をクールダウンさせながら、グラス片手にギターを爪弾くおやすみ前のひととき…、そんな様子が目に浮かぶ。

アルバムのラストは、日本向けのボーナス・トラックでキース・ジャレットの<Coral>。アナログ盤2枚組では、代わりにマイルス・デイヴィス<Blue In Green>が入っているようだ。何だか、美しくも儚いギター・ソロの世界に、今度はキース・ジャレットの『THE KoLN CONCERT』を聴きたくなってしまったよ。ちょうどタイミング良く、紙ジャケット仕様のUHQCD盤がアーカイヴ・コレクションとして復刻されているようでもあるし。