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穏やかな初秋の午後、文化の香り漂う神田駿河台で、マニアックなトーク・イベント『Mr.シティ・ポップ 滝沢洋一の世界』@ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)が開催されました。まずはお集まりいただいたマニアな皆さまに、熱く御礼申し上げます。進行は滝沢さん再評価の旗振り役である都鳥流星氏。自分はゲスト・コメンテイターとして壇上に立ちました。ブックカフェのESPACE BIBLIOは、オシャレな図書室とカフェに加え、多目的イベント・スペースも備えたステキな空間。音楽や本に限らず、アートの展示や朗読会、ストレッチのレッスンなども行われています。https://www.espacebiblio.jp

滝沢さんのご遺族から提供された未発表音源やデモ音源を聴きながら、短くも濃密な滝沢洋一の音楽キャリアを辿っていろいろ考察していこう、というこのトーク・イベント。山下達郎を支えた名リズム・セクション:伊藤広規&青山純の出会いが、後の名アレンジャー:新川博の手引きによるもので、それがマジカル・シティという滝沢さんのバック・バンドになったとか、実は滝沢さんは広規さんが合流される前にRCAと作家契約し、デビューに向けてデモ・テープも制作していたとか…。更にその黒幕だったのが、RCAの当時のプロデューサー:ロビー和田だったとか、担当ディレクターが西城秀樹や角松敏生を手掛ける岡村右だったとか。そういうミュージシャン人脈や、業界関係者の裏人脈を辿っていくと、氏のデビューまでの紆余曲折や、職業ライターとしての楽曲提供先の流れが、点ではなく線、そしてやがて面になって広がっていくのがよく分かる。

唯一のアルバムとなったアルファでの『レオニズの彼方』のオープニング・ナンバー<最終バス>は、実はかなり早い段階からレパートリーになっていて、RCAデモ、アレンジ違いのアルファ初期ヴァージョン、そしてレコードに入った完成版があり、その聴き比べも。ラフとはいえ、楽曲として早くから完成しており、実際RCAではカタチにならなかったこのデモがアルファと契約するキッカケになったそうだ。

また東京音楽祭に出品された、その名もズバリの<東京音楽祭>という曲は、『レオニズ〜』に収録された<マリーナ・ハイウェイ>のオリジナル。しかもその歌詞が吉田美奈子の提供で、そのまんま<恋は流星>なのだ。詳しい経緯は分からないが、美奈子さんの知らないところでこの詞が滝沢さんの手に渡り、それに曲をつけたのだろう。ところが美奈子さんが<恋は流星>を書き上げたので、<東京音楽祭>はボツとなり、新しい歌詞で<マリーナ・ハイウェイ>が誕生した。

滝沢さんの出世曲で、ハイ・ファイ・セットが歌った<メモランダム>(『レオニズ〜』にセルフ・ヴァージョン収録)にも歌詞が2パターンあり、山本潤子が歌う仮歌ヴァージョンをお披露目。更ににご遺族が、まだほとんど知られていない滝沢さんの楽曲提供作品を、直接レコードで数点ご持参くださったが、ホントにどれも見たことない。イヤイヤそれどころか、アーティスト名さえ聞いたこともないモノばかり。例外的にシティ・クラフトというフォーキー・ポップな男性デュオのみ知っていたが、滝沢さんが提供したシングル曲は、家にあったレコードには未収録だった。

他にも『レオニズ〜』にはいくつかアウトテイクがあり、中には当時のスタッフが、後々「入れときゃ良かった!」と後悔した、なんていうトラックも。また、完成したものの諸般の事情でお蔵入りの憂き目を見た2ndアルバム『BOY』から、<かぎりなき夏>を1コーラスほど。この曲はお蔵入りを経て、西城秀樹に提供されていくのだが、秀樹版をアレンジしたのが新川博、そのディレクターが岡村右という布陣で。こうしたところに、滝沢さんを取り巻くコネクションの強い因縁を感じる。

これから先、幻の2nd『BOY』が陽の目を見る時が来るのか、多くの未発表音源に光が当たるのか、それには権利上の問題や音の良し悪しなど、クリアしなければならない多くのハードルがある。でもそれを目指して、少しずつでも前進していきたい。第2回目のイベントが、その嬉しい報告になりますように…。