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元VOCALAND、角松敏生がフル・プロデュースを手掛けたANNAのソロ・デビューアルバム(97年発表)が、Light Mellow冠・拙監修・解説で初めての復刻。現在は BAY FM(千葉)の朝の顔、人気パーソナリティとして頑張っているが、歌わないのはもったいないと思っちゃうほどの豊かな表現力や、新人らしからぬ存在感が詰まっていた。

角松が本格的にプロデュースした女性シンガーというと、人気再燃中の杏里を筆頭に、中山美穂、今井優子、米光美保、そしてCHIAKIと凡子、近年ではアーバンギャルドの浜崎容子らが思い浮かぶ。だがポイントは、杏里の夏女&ダンス・ポップ・イメージを敷いたのも、中山美穂の脱アイドル化も、今井優子をシンガーからアーティストへと覚醒させたのも、いずれも角松だったということ。米光美保はVOCALANDの伏線と言えるし、そのVOCALANDの2作からは吉沢梨絵や吉田朋代も現れた。

ANNAは、邦洋10人の女性シンガーたちをカタログ的にラインナップしたオリジナルVOCALNDの一人。ANNAを含めてほとんどがド新人で、彼女も20歳頃にオーディションで選ばれている。VOCALNDでは2曲歌い、<Heart to you〜夜が終わる前に〜>が先行シングル・カットされて、これがデビュー曲になった。しかしANNAはそこでVOCALANDを離脱。新レーベル:INOKS(アイノックス)へ移籍し、このソロ・デビューを作ったのである。

プロデュースを手掛けた角松は、当時、自分のアーティスト活動を凍結中。しかしプロデューサーとしては多忙を極め、長万部太郎名義で結成した覆面バンド:アガルタ (AGHARTA)でもシングル<ILE AIYE〜WAになっておどろう>を発表。それがV6によるカヴァーを経て、伝説的な長野オリンピック閉会式生演奏へと発展した。これが翌98年2月のこと。しかしそうした中で作られたにも関わらず、手抜き感は一切ナシのハイ・クオリティ。コンピューターとプログラミングで構築したサウンドに、自身のギターやキーボードを重ね、ほとんどのトラックをマニピュレイターとの共同作業で組み上げている。その分厚くドライヴ感のあるブギー・スタイルは、如何にも当時の角松ワークス。それでいて、沼澤尚(ds)や田中倫明(perc)、故・浅野ブッチャー祥之/鈴木英俊(g)、中村キタロー(b)らの生演奏を随所にフィーチャーし、勝田一樹 (sax)や村田陽一 (tr)、塩谷哲 (pf)、吉川忠英 (ac.g)、数原晋 (flugelhorn) らをソロ・パートにキャスティングしていく。そうしたテクノロジーとヒューマン・プレイのバランス感が、角松ワークスの真骨頂だ。このサウンドに反応したか、ANNAのヴォーカルもVOCALANDよりずっと成長した感がある。

今回の復刻では、アルバム未収のレア・トラックを3曲追加収録。中身は<Colors>のシングル・ヴァージョン、3rdシングル<LAST DANCING>のカップリングだった<もどり道 〜 Kadomatsu T. スペシャル・コーラス・ヴァージョン>、そしてプロモーション用に作られたと思しき、アルバム収録曲のダイジェスト<Anna STARS On!>。<Colors>以外は筆者の提案だが、特に重要なのはダブルA面扱いでのシングル化だった<もどり道>の別ヴァージョンである。アルバム・テイクには入っていない角松自身のコーラス・ワークが聴け、彼自身、どちらをアルバムに収録するか頭を悩ませた、いうエピソードも残っている。これはもう、角松ファンは買い直し必須でしょう。この3曲、どれも今までは短冊形CDシングルにしか入っていなかったレア音源である。

なおサブスクでは、やはり角松プロデュースによる2nd『STORIES』も同時に配信スタート。後に角松が『The gentle sex』でカヴァーする<Single Girl>のオリジナルが聴ける。こちらのCD復刻は来年の予定だそうだから、それまではサブスクでガマンガマン。