yukari ito_misty hour

前日ポストに続き、ビクター【マスターピース・コレクション】の流れでリイシューされる林哲司のワークス3作品から、彼がプロデュースした伊東ゆかりの82年作『MISTY HOUR』をご紹介。初CD化が5年前の【Light Mellow's Choice】で、拙監修の紙ジャケ仕様だったが、今回はその前年に出ていたアルバム未収のシングル曲<強がり>をボーナス追加。これももちろん最新マスタリングで、UHQCDの高音質盤での登場だ。

林がこのアルバムをプロデュースすることになったのは、そのシングルを機に、彼の方から「ゆかりさんをプロデュースさせて欲しい」と申し出たから。ゆかりサンが出演していた音楽番組『ザ・ヒットパレード』のファンだった彼は、彼女の歌声が大好きで、そこで歌われた洋楽ポップスがずっと胸に残っていたそうだ。と同時に、作曲家ではなくプロデューサーのスタンスで、伊東ゆかりというシンガーをどう見せていくかに挑戦したかった。そしてそれは、周囲にいる優れたミュージシャンたちに協力して貰えばイイものができる、そうした自信に裏打ちされたモノでもあった。

だから、林自身の書き下ろしは3曲と控えめ。代わりに竹内まりや、EPO、井上鑑、かまやつひろし、そして大橋純子の公私にわたるパートナー:佐藤健が楽曲提供している。でもこれだけの面々が楽曲を寄せたにも関わらず、話題にはならなかった。何故なら、当時はみんなキャリアが浅く、EPOなんてド新人だったから。でも今は、佐藤健が書いた<マリコ>、井上鑑が作った<こんな優しい雨の日は>などが、各種コンピレーションに収録されたり、DJ需要の高い人気曲になっている。林自身の印象に残っているのは、そのEPOが書いた<告白>のユニークさ。
「まりやさんの<September>もEPOさんのコーラスだけど、キャッチーなメロディを、よりポップに引き立てるスキャットなんです。ヴォイシング云々ではなく、文字を当て込むアイディアがスゴイ」
この作曲陣を集められた時点で、アルバムは半分完成したようなもの、そう思ったそうだ。

演奏陣は、パラシュートの面々(井上鑑、松原正樹、今剛、林立夫、斎藤ノブ)に、村上ポンタ秀一(ds)、松下誠(g)、高水健司/岡沢章(b)、難波弘之(kyd)、スペクトラムの奥慶一(kyd)、浜口茂外也(perc)、土岐英史(sax)等など。コーラスには楽曲提供のまりや、EPOのほか、安部恭弘、小山水城、翌年林のプロデュースでソロ・デビューする国分友里恵らが参加。

当時は完全にスルーされたが、今は 大御所シンガーによるシティポップ的名盤として、シッカリ認知されている。林哲司ファンはスルー厳禁の一枚だ。