
何だか唐突に現れたナラダ・マイケル・ウォルデンのニュー・アルバム。『IMMORTALITY』から約3年ぶりと比較的早いペースでの登場だけど、何作か続いていた自主レーベル:Tarpanからのリリースではなく、アートワークのムードも違う。何じゃコリャ?と思う人、少なくないんじゃないかな。日本じゃ角松敏生が彼の80年の楽曲<Dance Of Life>をモチーフにアルバムを作ったりして、一部で注目されているが、そんなことはどうでもよくて…。それよりナラダ自身の最近の動き、ジャーニーへの加入〜ツアー参加〜短期間で脱退というアレは、一体なんだったんだろう? まぁ、裏事情も薄っすらと見えてしまいそうだけれど…。
新作の売りとしては、スティービー・ワンダーがハーモニカ、スティングが一部デュエット、カルロス・サンタナがギター・ソロで参加した<The More I Love My Life>なのは間違いない。
「この曲をまとめるのは本当に楽しかった。 ジェフリー・コーエンと一緒に歌詞を書き、主要なパートを録音した後、カルロスにギターを弾いてくれるように頼んだんだ。 その時にハーモニカのアイデアを思いつき、今度はスティービー・ワンダーにハーモニカを吹いてくれって言った。 それからしばらくして、トゥルーディー・スタイラーがプロデュースする熱帯雨林慈善団体のイベントの音楽監督を務めるため、ニューヨークに行ったんだ。そうしたら近くで スティングがリハーサルをしていたので、彼をエレクトリック・レディ・スタジオに連れて行って、歌ってもらった。みんな素晴らしく感動的で、この曲は私が望んでいた通りの仕上がりになったよ」
ところがこのアルバム、やはり何処かナラダっぽくない。ナラダには80年代から、多少入れ替わりがありながらも良き関係を保っているミュージシャン・チームがいるが、彼らは今作にはほとんど関わっていない。代わりにナラダの片腕を務めるのは、 イタリアはミラノを地盤とするリノ・ニコロッシ&ピノ・ニコロッシによるチーム・ニコロッシ。クレジット詳細を確認すれば、参加ミュージシャンはほとんどイタリア系らしく、レコーディングも彼らが運営するミラノのスタジオと、カリフォルニアはサン・ラファエルにあるナラダのターパン・スタジオ。ナラダのドラムと、彼のファミリーと思しきバック・コーラスは、そこで録られたものと思われる。だから『EUPHORIA』。売れっ子プロデューサーになる前、マハヴィシュヌ・オーケストラに在籍する一介のジャズ・ドラマーだった頃から、ヨーロッパには縁のあったナラダだけど、今になってこうなるとは思わなかった。ミラノといっても、今更チェンジとかB.B.Q.バンドのようなイタリアン=ニューヨークのアーバン・ファンクを演るワケでもない。
実際、ゲットして最初に聴いた時は、「これがナラダ!?」と失望感が高かった。が、繰り返し聴くとだんだん馴染んできて、そう悪い作品ではないと思えてくる。ニコロッシは現地ではそれなりに知られたプロデュース・チームらしく、80年代から活躍。Novecentoというファミリー・グループでも多くのアルバムを出している。ゼロ年代以降、アルバム制作のチャンスを失っているUSの硬派フュージョン・アーティストにも手を差し伸べて、ビリー・コブハムやスタンリー・ジョーダン、デオダートらにも関わった。このナラダの演奏陣も、Novecentoのメンバー、つまりニコロッシ・ファミリーが深く関与している。ただし作品のベクトルとしては、ドラマー:ナラダではなく、アーティスト兼プロデューサー・サイドに重心を置いたモノ。リズムが効いた楽曲はハウス系のプログラミング・サウンドが基本で、そこにドラムなりベースなりギターなりを重ねたり差し替えたり…、というフォーマット。ナラダらしい往年のゴージャスなサウンド・メイクは乏しいから、オールド・ファンは物足りなくて たじろいてしまうだろうし、そこにジャーニーへの出入りを重ね合わせると、迷走感しか生まれてこない。
でも冷静に考えれば、ピークを超えた大物プロデューサーが現役感を出して新作をリリースするには、こうなるんだろうなぁ〜、と。現に先行リリースされた<I’d Rather Dance With You>では、18年のソウル・トラックス・リーダーズ・チョイスでニュー・アーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞したコーネル・CC・カーターをデュオ・ヴォーカルに起用。サンフランシスコ出身の彼は、ナラダの『EVOLUTION』やサンタナ近作にも参加していたが、 この曲は既にUKソウル・チャートで好成績を残しているそうだ。
またライトなポップ・ダンサー<Baby Let’s Go>には、ラッパーのディア・サイラスが参加。これは彼の人気曲に、ナラダがプロデュースしたレジーナ・ベル<Baby Come to Me>がサンプル使用されていたのが縁とか。この<Baby Let’s Go>の前に置かれた<Close to My Heart>や、裏打ちビートとキャッチーなメロディが印象的な<Break Free>、今ドキのアイドル・ユニットが歌っても違和感がなさそううな<Show Me How to Love Again>あたりが、今作の白眉か。ダンサブルなジャズ・ファンクに長けたサウンド・クリエイター:ナラダには不要と思える楽曲でも、ポップ・ミュージックのプロデューサー的には演るべき価値のあるトラックなのだろう。そのあたりの変わり身に、リスナーである自分たちがついていけるかどうか。そこが評価の分かれ目かも。基本的にナラダのメロディ回しとヴォーカルは変わってないし、ロザーナ・ニコロッシのベースはブイブイ鳴ってて、あの頃のランディ・ジャクソンを髣髴させます。
EUPHORIA / NARADA MICHAEL WALDEN タワーレコードで購入
「この曲をまとめるのは本当に楽しかった。 ジェフリー・コーエンと一緒に歌詞を書き、主要なパートを録音した後、カルロスにギターを弾いてくれるように頼んだんだ。 その時にハーモニカのアイデアを思いつき、今度はスティービー・ワンダーにハーモニカを吹いてくれって言った。 それからしばらくして、トゥルーディー・スタイラーがプロデュースする熱帯雨林慈善団体のイベントの音楽監督を務めるため、ニューヨークに行ったんだ。そうしたら近くで スティングがリハーサルをしていたので、彼をエレクトリック・レディ・スタジオに連れて行って、歌ってもらった。みんな素晴らしく感動的で、この曲は私が望んでいた通りの仕上がりになったよ」
ところがこのアルバム、やはり何処かナラダっぽくない。ナラダには80年代から、多少入れ替わりがありながらも良き関係を保っているミュージシャン・チームがいるが、彼らは今作にはほとんど関わっていない。代わりにナラダの片腕を務めるのは、 イタリアはミラノを地盤とするリノ・ニコロッシ&ピノ・ニコロッシによるチーム・ニコロッシ。クレジット詳細を確認すれば、参加ミュージシャンはほとんどイタリア系らしく、レコーディングも彼らが運営するミラノのスタジオと、カリフォルニアはサン・ラファエルにあるナラダのターパン・スタジオ。ナラダのドラムと、彼のファミリーと思しきバック・コーラスは、そこで録られたものと思われる。だから『EUPHORIA』。売れっ子プロデューサーになる前、マハヴィシュヌ・オーケストラに在籍する一介のジャズ・ドラマーだった頃から、ヨーロッパには縁のあったナラダだけど、今になってこうなるとは思わなかった。ミラノといっても、今更チェンジとかB.B.Q.バンドのようなイタリアン=ニューヨークのアーバン・ファンクを演るワケでもない。
実際、ゲットして最初に聴いた時は、「これがナラダ!?」と失望感が高かった。が、繰り返し聴くとだんだん馴染んできて、そう悪い作品ではないと思えてくる。ニコロッシは現地ではそれなりに知られたプロデュース・チームらしく、80年代から活躍。Novecentoというファミリー・グループでも多くのアルバムを出している。ゼロ年代以降、アルバム制作のチャンスを失っているUSの硬派フュージョン・アーティストにも手を差し伸べて、ビリー・コブハムやスタンリー・ジョーダン、デオダートらにも関わった。このナラダの演奏陣も、Novecentoのメンバー、つまりニコロッシ・ファミリーが深く関与している。ただし作品のベクトルとしては、ドラマー:ナラダではなく、アーティスト兼プロデューサー・サイドに重心を置いたモノ。リズムが効いた楽曲はハウス系のプログラミング・サウンドが基本で、そこにドラムなりベースなりギターなりを重ねたり差し替えたり…、というフォーマット。ナラダらしい往年のゴージャスなサウンド・メイクは乏しいから、オールド・ファンは物足りなくて たじろいてしまうだろうし、そこにジャーニーへの出入りを重ね合わせると、迷走感しか生まれてこない。
でも冷静に考えれば、ピークを超えた大物プロデューサーが現役感を出して新作をリリースするには、こうなるんだろうなぁ〜、と。現に先行リリースされた<I’d Rather Dance With You>では、18年のソウル・トラックス・リーダーズ・チョイスでニュー・アーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞したコーネル・CC・カーターをデュオ・ヴォーカルに起用。サンフランシスコ出身の彼は、ナラダの『EVOLUTION』やサンタナ近作にも参加していたが、 この曲は既にUKソウル・チャートで好成績を残しているそうだ。
またライトなポップ・ダンサー<Baby Let’s Go>には、ラッパーのディア・サイラスが参加。これは彼の人気曲に、ナラダがプロデュースしたレジーナ・ベル<Baby Come to Me>がサンプル使用されていたのが縁とか。この<Baby Let’s Go>の前に置かれた<Close to My Heart>や、裏打ちビートとキャッチーなメロディが印象的な<Break Free>、今ドキのアイドル・ユニットが歌っても違和感がなさそううな<Show Me How to Love Again>あたりが、今作の白眉か。ダンサブルなジャズ・ファンクに長けたサウンド・クリエイター:ナラダには不要と思える楽曲でも、ポップ・ミュージックのプロデューサー的には演るべき価値のあるトラックなのだろう。そのあたりの変わり身に、リスナーである自分たちがついていけるかどうか。そこが評価の分かれ目かも。基本的にナラダのメロディ回しとヴォーカルは変わってないし、ロザーナ・ニコロッシのベースはブイブイ鳴ってて、あの頃のランディ・ジャクソンを髣髴させます。