tomoko kuwae

最近、いわゆるシティポップ系隠れ名盤を漁る機会があって、久々に手にした一枚。桑江知子といえば、化粧品のCMソングとして大ヒットした<私のハートはストップモーション>ばかりが突出していて、一発屋的イメージがあるけれど、実は現在もシッカリと歌い続けていて。最近はシティポップ・ブームの煽りを受けて、大きな舞台に引っぱり出される機会も増えているようだ。でもそのネタは、相も変わらず<私のハートはストップモーション>。果たしてそれで良いのかネ…。

…というワケでコレは、桑江知子が83年に発表した4作目。タイトルこそ『TOMOKO I』とデビュー盤みたいだけれど、これはレーベル移籍しての1作目ゆえ。その分、心機一転の作という強い思いが込められている。しかもメジャー・リリースした4作を俯瞰すると、実はコレが一番シティポップス寄り。デビューするなり<私のハートは〜>がヒットして、竹内まりやと新人賞レースを競うほどに注目されたが、結局後が続かず…。生田敬太郎やパンタ、小林泉美、吉田健らが参加した前作『Mr.COOL』(80年)はロック寄りの仕上がりで、アルバムを重ねる度に面白くなっていた。桑江自身、「ようやく私の理想に近くなりつつある」というコメントを残していたほど。だからその直後のレーベル移籍は、それだけ重要な意味を持っていたのだ。

…とはいえ、表向きの看板曲は、アニメ『宇宙戦艦ヤマト完結編』の挿入歌<二つの愛>。でもこの壮大な歌謡バラードにシティポップ的価値は乏しく、「歌、上手いねぇ〜」という感想。むしろコレを外した他の楽曲に、このアルバムの本質がある。

その辺りの作家陣は、以前からコラボレイトしていた佐藤準と梅垣達志、そして彼女自身。そこに1曲、深町純が加わっている。でもミュージシャンの基本ラインアップは、Kyd:深町に、土方隆行(g)、和田アキラ(guitar solo)、富倉安生(b)、山木秀夫・青山純(ds)、斉藤ノブ(perc)と、ほぼ固定。曲によって、そこへ佐藤準(kyd) と梅垣 (cho) が加わる構図になっている。つまり、フュージョン好きには KEEP+プリズム/マライア連合軍のような様相。そしてこの凄腕たちがさり気なく、でもなかなかエゲツないアンサンブルを繰り広げているのだ。

例えば、<Whose Who>や<Southern Girl>に於ける山木/青山のツイン・ドラムなんて、他じゃなかなか聴くことができないし、楽曲によってはファンクやレゲエのアプローチもあり。まぁ<Southern Girl>なんて、モロにカルチャー・クラブだけれど それでも彼女が よりアーティスティックなシンガーになろうと模索していたのが伝わってくるし、ヴォーカルの安定感も改めて。哀愁ミディアム・スロウの<別れのドレス>とか、かなりの名曲。ソリストとして和田アキラのキャスティングしたのも、なかなかツボを突いている。そこはサスガ、深町さん。

だけど、やっぱり<私のハートは〜>を越えることはできず…。多分、シングルが弱いんだな。少し前にピックアップした久保田早紀もそうだけれど、一般大衆は結局イメージでしか音楽を聴いていないから。でもってメディアは今のブームで、この時とばかりに<私のハートは〜>を引っ張り出す。でもシティポップを懐メロ的に扱っても、喜んでよってくるのはジジババだけ。それこそ、夢グループと変わらんぢゃん… もちろんそこを無視しちゃイケないけれど、それじゃあ最初から先が見えてるコトに、はよ気づけ

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