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80年代のJ-FUSIONシーンの先頭を走っていた女性キーボード奏者の代表格、菊池ひみこ。80年代前半は、テイチクから『DON'T BE STUPID』『FLASHING』『ALL RIGHT』など6枚のオリジナル・アルバムを連発して脚光を浴びたが、87年にCBSソニー(当時)に移籍。そこで『FLYING BEAGLE』『SEVILLA BREEZE』という2作品をリリースした。それがこの度、最新リマスター仕様/高品質Blu-spec CD2で、タワー・レコード限定リイシュー。復刻されるは今回が初めてなので、それぞれ36〜37年ぶりとなる。

菊池ひみこは宮城県仙台生まれ。最初はピアノを弾いていたが、エレクトーンに転向。16歳でヤマハのエレクトーン・コンクールで優勝し、それを機に上京して、ヤマハ専属でデモ演奏などを行なうようになった。その後アンサンブル経験を積むべく、故・木田高介のグループで修行。吉田拓郎や上条恒彦、チェリッシュなどのサポートを経たのち、ジャズに開眼。原信夫&シャープ&フラッツに加入し、75年まで在籍している。独立後は都内のジャズ・スポットに出演を重ねながら、77年に大橋純子&美乃家セントラルステーションに加入。翌78年には、三木敏悟率いるインナー・ギャラクシー・オーケストラに参加し、数多のジャズ・アワードを受けた『海の誘い(BACK TO THE SEA)』をレコーディング、79年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルにも出演した。

インナー・ギャラクシー・オーケストラのメンバーだった80年、木田高介の下で知り合い、ずーっと行動を共にしていたギタリストの夫:松本正嗣と、リーダー・グループ DEAD ENDを結成。テイチクとの契約に至る。今回の復刻盤『FLYING BEAGLE』『SEVILLA BREEZE』は、通算7枚目と8枚目に当たる。

女性らしからぬパワフルなピアノ・プレイ、ファンキーなグルーヴにホーン・セクションを乗せたゴージャスかつダイナミックなフュージョン・サウンドには、従来から大きな変化はない。参加メンバーも、菊池ひみこと松本正嗣 (g) 以下、岡沢章・渡辺直樹 (b)、市原康・渡嘉敷祐一・岡本郭男 (ds)、JAKE H.CONCEPCION (sax,fl) など、彼女の作品ではお馴染みの面々だ。『SEVILLA BREEZE』では基本的に、菊池・松本・渡辺・市原に納見義徳 (perc) 吉田憲司 (tp) 村田陽一 (tb)、 林 文夫 (sax) という8人編成のレギュラー・バンドで録音に臨んでいる。作編曲も菊池&松本の二人三脚で、『SEVILLA BREEZE』には2曲、ビゼーの歌劇『CARMEN』からのアダプテーションあり。だからスペインのセビリアなのだが、多少スパニッシュ・テイストが加味された程度で、ハイブリッドが身上のフュージョン好きには程良いスパイスになるはず。

むしろ大きく変わっていたのは、世の音楽シーンの方だ。打ち込みやシークエンス・サウンドが蔓延し、フュージョン・シーンでも人工的な深〜いリヴァーヴの音が主流になっていた。同時期の大ヒット・フュージョン作品が、角松敏生『SEA IS A LADY』だと言えば、おおよそのサウンドはイメージできるだろう。その中で “らしさ” を貫き、ブレのない音を構築しているのはサスガ。一大メジャー・レーベルに移ったためか、いつになくポップな楽曲もあったりするけれど、この時期、これだけ本格的でミュージシャンシップの高い王道フュージョン作品はあまり多くない。

10年前、同じタワー・レコード限定で自分が監修した【Light Mellow's Picks x Tower to the People】からも、彼女のテイチク作品群が復刻されていて、これもまだ購入可能。ひみこのキャリアに照らせば、入門者はまず前述した『DON'T BE STUPID』『FLASHING』『ALL RIGHT』あたりを先に聴くべき、と思う。けれどまぁ、そこはタイミングで。ただし今回、自分は無関係なので、『FLYING BEAGLE』は解説ナシ。『SEVILLA BREEZE』は36年前のジャズ評論家氏のライナーがそのまま流用されているらしい。う〜ん、折角の再発なのだから、こーいうトコ、ケチるなよな〜。そうした小さな啓蒙が、やがてはこれからの音楽文化の発展に繋がるかもしれないんだゼ。

ちなみに昨今のひみこ女史、旦那さんと共に鳥取の温泉街でライヴ・ハウスを経営し、自らも出演して、地元の音楽文化に貢献している。たまに都内でライヴを演ることもあるようなので、ファンはお見逃しなく。

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