31st

藤原美穂さん (vo)や外園一馬クン (g) に以前から「観にきて〜」と誘われていた31丁目バンド。コロナ禍を挟んでの4年ぶりとなるライヴは、バンド名の由来でもある世田谷区三宿のライヴハウスを離れ、銀座Lounge Zeroに進出。ドラムに伊吹クン、ベースは目黒クンと、何だかメンバーほとんど知り合いぢゃん、という気安さもあり〜ので。前日のRAGHEADS(伊吹クンに小川翔クン、山本連クンとコチラも知り合い多数)@Bluenote Tokyoも観に行きたかったが、コチラはいつの間にかソールドアウトになっていて、結果この日に集中と。

ライヴはケニー・ロギンズ<Wait A little While>、そしてシーウインド<He Love You>のカヴァーで軽快にスタート。今年でデビュー40周年という美穂さんと、その時にはまだ生まれていない演奏陣という年の差バンドながら、世代を越えたAORやフュージョン愛で繋がっているメンバーたち。果たして何を演ってくれるのか、そこが大きなお楽しみポイント。だからこの2曲で、まさに掴みはOK、ってな感じだ。

3曲目は、美穂さんとベース目黒クンのデュエット <I Don't Wanna Be Alone Tonight>。これ、メチャ聴き覚えのある曲なのだが、その場では誰のカヴァーか思い出せず…。ピアノのタッチがモロにリチャード・ティー風なのに、自分の記憶はカントリー・ポップ系のアーティストに向かう。タネを明かすと、オリジナルは<Sexy Eyes>でお馴染みのドクター・フック。それをジャズ・シンガーのサリナ・ジョーンズがスタッフをバックにカヴァーしたヴァージョンが元ネタだった。ピアノどころか、デュエットもリチャード・ティーというオチで。

ベースが歌うならオレも!と、外園クンがマイクに向かったのが<Sara Smile>。ホール&オーツの、しかも歌うのが難しそうなこの曲を選ぶトコロが、如何にもゾノ君らしい。流麗に弾き倒す彼のギターは言うまでもなく素晴らしいけど、こういう少し枯れた楽曲を味わい深くプレイできるトコロが彼の魅力。続いてマリーナ・ショウ追悼で<Street Walkin' Woman>、ゾノ君がドゥービーを観に行ったという時事ネタからの <You Belong To Me>と、聴くのはイイけど演るのは難しい楽曲をサラリスラリとこなしていく。以前も演ってた楽曲が多いのだろうけど、リハーサルには多忙な伊吹クンが不参加だったらしいから、まったくオソロシイ連中であるな… しかもメンバー全員でコーラスを取ったりして、そこはちょっと微笑ましくもあり。

でも実は、その後が演奏面のハイライト。デニース・ウィリアムス<When Love Comes Calling>は、キーが高すぎて美穂さんが敬遠していたらしいが、アレンジにもやたら面倒っちいキメが散りばめられていて。デニースを演るにしても、よりによってコレかよぉ〜と。マリア・マルダー<Midnight at the oasis>は、エイモス・ギャレットのソロ名演で有名。そしてダイアン・リーヴス<Sky Island>は、アクロバティックなスキャットとバンドのソロ回しが聴きモノ。普通こんな難易度の高い曲は選ばないが、それがテクニックの品評会に終わらず、シッカリとオーディエンスに聴かせるモノになっている。そこに簡単、イヤ感嘆

またヴァレリー・カーター<Wild child>や、アンコールでのリッキー・リー・ジョーンズ<Company>のようなスロウ・ナンバーでは、美穂さんの無垢なハイトーン・ヴォイスが威力を存分に発揮する。この辺りの楽曲は、ただ歌が上手い、レンジが広い、だけでは歌いこなせない難曲。ファンキー姐ちゃんのイメージが強い美穂さんの、シンガーとしての真価をアピールするモノだった。目黒くんチョイスによる唯一の90年代楽曲<Runaway>は、ちょっとしたファン・サーヴィスかな。そして本編最後の<Shopping 'round Again>は、やはりバンド名の由来に繋がる24丁目バンド(ハイラム・ブロック、ウィル・リー、スティーヴ・ジョーダン他)のカヴァー。ゾノ君が歌い、美穂さんはタンバリン片手に客席を闊歩。ギター・ソロが激しく燃えるようなプレイを披露した後は、それに対抗するようなアグレッシヴなシンセ・ソロが素晴らしく。全然付き合いのなかったkyg杉浦クンだけど、実は杉山清貴のツアー・サポートに付いていた実力派で、随所で印象的なピアノや鍵盤ソロが聴けた。

そしてラストのラストは、シーウインドの<What'cha Doin’ >で、オーデュエンス総立ち。大盛り上がりでの大団円。

とにかく全員が売れっ子のセッション・ミュージシャン。最近のゾノ君はT-SQUAREだ、矢沢の永ちゃんだと、大物共演が多いし、伊吹クンもどうやら念願の角松レコーディングに声が掛かったようだ。もちろん目黒クンも、幅広く活躍している。でもこういうのって、演奏スキルが高いのは、もはや当たり前の話。もっとその先のこと、譜面に書き表せないような音楽的センスや表現力のベクトル、そういうトコロでどれだけ互いに共感できるかが問題になる。だからこそ、こうした楽曲をセレクトし、一丸となってプレイできる、そしてその迸るような情熱が客席に伝わってくる。対して聴き手サイドは、それを何処まで受け止められるか。元ネタは誰か、なんて知識は二の次・三の次で構わないけれど、その歌や演奏に秘められた想いの丈を真っ直ぐ受け止められるだけの感性は、ちゃんと磨いておかなければイケない、と思わされたライヴだった。

《Set List》
1. Wait a little while (Kenny Loggins)
2. He loves you (Seawind)
3. I don't wanna be alone tonight (Salena Jones / Dr.Hook)
4. Sara smile (Hall & Oates)
5. Street walkin' woman (Marlena Shaw)
6. You belong to me (Carly Simon / The Doobie Brothers)
7. When love comes calling (Deniece Williams)
8. Midnight at the oasis (Maria Muldaur)
9. Sky Island (Dianne Reeves)
10. Wild child (Valerie Carter)
11. Runaway (Nuyorican Soul)
12. Shopping 'round again (24th Street Band)
-- Encore --
13. Company (Rickie Lee Jones)
14. What cha doin’ (Seawind)

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