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松田聖子の『SEIKO JAZZ 3』。コロナ前に出た2枚は、レコード大賞企画賞を受けたりするも、自分は試聴しただけで手を引っ込めた。でも今回はサブスクで内容を把握した上で、コレはチャンと聴いておくべきと判断し、ポチッとゲット。そもそもセルフ・カヴァーの英語版<赤いスイートピー>やエリック・クラプトン<Tears In Heaven>のカヴァーが先行デジタル・リリースされた時から前評判が高く、自分の周りにも絶賛する人多数。実際フル・アルバムを聴くと、そのクオリティがシッカリ全編に渡って貫かれていた。

では前2作とは何が違ったのか? それはジャズというカタチに捕らわれていた前2作に対し、今回はより自由に聖子流ジャズを歌っているトコロだろうか。最初はストリングスやビッグ・バンドを従えて、スタンダード・ジャズの体裁を取り繕ったけど、ジャズの極意はスタイルに非らず、ということに気づいたのかもしれない。

前2作も選曲の幅は広く、ポップ・スタンダードやボサノヴァを取り上げている。でも今回はいわゆるトラディショナルなジャズ・チューンは1曲もなくて、シャーデー、マイケル・ジャクソン、ビー・ジーズ、ロバータ・フラック、ホイットニー・ヒューストンなどのヒット曲ばかり。しかも10cc、更に自分も馴染みが薄いスノウ・パトロールなんてあたりをチョイスしている。マルティカのヒットはプリンスの提供曲。洋楽好きにはチョイとベタな選曲にも見えるけれど、要は彼女が愛でている楽曲、いま歌いたいナンバーを素直に並べた気がする。

中でも重要なのは、クラプトン<Tears In Heaven>だろう。レコーディングはコロナ中だったらしいから、彼女は愛娘を亡くして間もない頃。同じような状況でクラプトンが歌ったこの曲に、自分を投影していたのは疑う余地がない。このタイミングで自分のセルフ・カヴァーを敢えて持ってきたのも、自分らしいジャズのカタチが見えてきた証拠。更に言えば、シャーデー2曲もそのポイントかも。

プロデューサーは、フィル・コリンズやクラプトン、ケニー・ロギンス、TOTO、ダフト・パンクなど、ジャンルを超えて活躍している売れっ子のセッション・ベース奏者:ネイザン・イースト。でもテン年代からは自身のアーティスト活動を始め、2枚のリーダー作、ボブ・ジェームスやジャック・リーそれぞれとの共演盤をリリースしている。プロデュース経験は浅いものの、近年のアーティスト活動の延長に『SEIKO JAZZ 3』があるのは間違いないし、ネイザンにしたら制作ワークを本格化していきたい目論見もありそうだ。

SEIKOとネイザンの出会いは、2012年にL.A.で開催されたクインシー・ジョーンズ音楽活動60周年コンサートとか。その後すぐ、ネイザンが25年前後もメンバーを務めるフォープレイの同年作、『ESPRIT DE FOUR』に収録された東日本大震災の復興支援曲<Put Our Hearts Together>でヴォーカルを取った。今回のレコーディングはコロナ禍ゆえにファイル交換で進められたそうだが、前2作とは大きく違ってスモール・コンボによるシンプルなサウンドが特徴。実際のアレンジは、ネイザンとトム・キーン、グレッグ・フィリンゲインズ、ジョン・バブコ、ノア・イースト(ネイザンの息子)らが共同で行なっている。そのほかのサポート陣には、スティーヴ・フェローニ (ds) ジャック・リー (g) など。ゲストとしてケニーGが<赤いスイートピー>でサックスを吹いている。

また、クラプトン・バンドにいるネイザンが<Tears In Heaven>を熟知しているのと同じように、マイケル・ジャクソン<Rock With You>のオリジナルをプレイしていたのが、今回この曲をネイザンと共同アレンジしたグレッグ・フィリンゲインズ。プロデュースにネイザンをキャスティングしたことで、クインシーやクラプトン人脈を手繰り寄せた感もあり、一気に視界が開けたようなところがありそうだ。

一世を風靡したアイドルも、45年近いキャリアを積んで、キーは自然と低くなった。でもその分、表現は円熟味を増して深くなり、ゆったりジックリ、落ち着いて楽しめるようになった。そうした今の彼女に相応しいのは、アイドル時代のヒット曲ではなく、アダルトでジャジーなアレンジを施した、こうしたナンバーの方。しかもジャズの定型にはハマらず、今の彼女の自然体の歌が楽しめる。このSEIKO JAZZのシリーズ、3枚目にして俄然面白くなってきた気がするな。

1. I'm Not In Love / 10cc
2. 赤いスイートピー ~ English jazz version / 松田聖子
3. Rock With You / Michael Jackson
4. Tears In Heaven / Eric Clapton
5. The Sweetest Taboo / Sade
6. Killing Me Softly With His Song / Roberta Flack, The Fugees
7. Chasing Cars / Snow Patrol
8. Saving All My Love For You / Whitney Houston, Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.
9. Paradise / Sade
10. Love...Thy Will Be Done / Martika
11. How Deep Is Your Love / Bee Gees

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