レココレ5

レコード・コレクターズ誌最新号、第1特集は『FUSION BEST 100 洋楽編』。選盤とレビューで参加しました。書いたのはジョージ・ベンソン『BREEZIN'』(3位)、ドナルド・バード『BLACK BYRD』(31位)、ボブ・ジェームス『TWO』 (66位)、ガボール・ザボ『HIGH CONTRAST』(92位)、ニュー・トニー・ウィリアムス・ライフタイム『BELIEVE IT』 (97位)。30枚リストアップして、うち25枚がBEST100に入っていたから、セレクトのバランスは。まぁ取れていたのかな? 

そもそも音楽を題材にして、文化・現象・歴史的側面からロジカルに語る傾向の強い音専誌だから、フュージョンがこうして巻頭特集に上がったこと自体がビックリである。でもこの数年ぐらい、クロスオーヴァー/フュージョン熱の高まりを肌で感じていたので、大いに頷けるトコロはある。やっはりDJ / クラブ方面からの再評価は大きいし、ヒップホップを絡めたニュー・チャプター方面からの視線も鋭い。一方でシティポップ再評価と同じ文脈での人気も高まってきている昨今だ。そして何より、日本のセッション・ミュージシャン・シーンの世代交代事情を見て、若いプレイヤー達のハイブリッドな感覚に触れていると、自分がリアルタイムでそれに接してこられた幸運と、だからこそ若い感性を積極的に受け入れたい気持ちになる。

例えば70年代のロック・シーン。パンク・ムーブメントはオールド・スクールへの拒否感や破壊からスタートした。実はそれがポーズだったことはすぐに暴露されたけれど、今の若い世代の多くはもっと素直。王道なり歴史を踏まえた上で、新しいセンスを加え、再定義を試みている。

このフュージョン特集の在り方や結果に対しても、どうやら賛否が割れている様子。でもこの雑誌の購読層、50~60歳代の選者が多いことを鑑みれば、ある程度は定番が多くなり、そこに近年の人気作や再評価作が程よく散りばめられる、というのが、狙っていた落とし所だったのでは? DJ雑誌やカルチャー誌、演奏系の雑誌で同じ企画をやったところで同じ結果になるワケがなく、レココレ誌的には想定内かと。

選者アンケートを見ると、ヴォーカル物の扱いについて、悩んだ方が多かったみたい。編集部からは歌モノはあってイイがインスト中心の作品で、というお達し。自分はそれを、曲数もしくは楽曲内のパートで演奏メインならば許容、ぐらいで考えた。ベンソン『BREEZIN』、クルセイダース『STREET LIFE』、グローヴァー『WINEGHT』あたりは、フュージョンに於ける歌モノの存在価値を変えた所に大きな意義があったのだし。かといって、歌モノ・メインの作品もOKにしてしまっては、わざわざフュージョン特集にした意味が薄らいでしまう。

個人的に意外だったのは、ロック由来のインスト作品の存在が薄かったこと。ジェフ・ベックは当然入るとしても、フルムーンはもっと上に来るかと思ったし、サンタナは入らなかった。ブリット・ファンクの元祖みたいなブライアン・オーガーの選外も残念だったな。飛び抜けた作品がないので、好みが割れてしまったか。また獲得得点順の掲載を年代順に並べ直すと、また違った面が見てきそう…。80年代に入ってからのこのシーンの音楽的進化は、ごく一部のアーティスト/スタイルに限られ、多くは拡大再生産になってしまったコトが窺えるからだ。スムーズ・ジャズはその成れの果て…、なんだろうな。

そんなコトを書きながら、次号の『FUSION BEST 100 邦楽編』についても考えを巡らせて。既にランキングの結果は出てきているけど、さらに頭をヒネる必要があるのだよ。

あ、最新号では、ボズ・スキャッグスの来日ライヴ・レポート、輸入盤紹介でキャメルの32枚組ボックスも書いてます。

レコード・コレクターズ 2024年5月号
ミュージック・マガジン
2024-04-15