ryusenkei_illusions

先週の新生アルファミュージックのコンヴェンションで、ミニ・ライヴを披露してくれた流線形 改めRYUSENKEI。追ってCDが送られてきました。クニモンド(瀧口)君とはインディ・デビュー直後からの付き合いなので、ニュー・アルバムが新生アルファから出ると知った時は、かなりビックリ。でも見せ方やスケール感が変わっても、RYUSENKEIらしさはシッカリ貫かれていたので、結果オーライ。レーベルによっては、会社の要求をゴリ押しして、結構トラブルを起こしている所もあるらしいから、そこはアーティストの意向を尊重する旧アルファのスタイルが引き継がれ、クニモンド君とうまくマッチングした結果と言える。

名前の表記が漢字から英語になっただけでなく、初めてレギュラー・シンガーを迎えた、というのが今回の大きなポイント。しかもそのSicere(シンシア)という娘は、親子ほども歳の離れたバイリンガル・シンガー・ソングライターで、ちょっとツーンとした歌声がクール。ちょうどボサノヴァ・シンガーのように、個性の薄さがむしろ個性、みたいな感覚がある。ただしそれは、これまでに共演してきたサノトモミ、江口ニカ(一十三十一)、比屋定篤子、堀込泰行ら、声に特徴がある人たちに比べて、というコトだけれど。だからウィスパーで歌っているワケではなく、シッカリと、凛とした歌を歌うヒトだ。

メジャーに移った効果なのか、参加ミュージシャンはグレードアップ。何人かは以前のアルバムから参加している面々だけど、ポンタさんに見い出されたピアノの柴田敏孝、LIVE Light Mellowでも叩いてもらったエビちゃんことドラム海老原諒、そしてギターの高木“大丈夫”大輔、パーカッションの山下あすかチャンなど、自分も面識のある若手敏腕がググッと増えている。以前のナマ流線形を観て、ライヴ・パフォーマンスはもっと良くなる余地がある、と思っていたし、それをクニモンド君にも伝えたことがあるので、いよいよ来たかという感じ。

もうひとつ、メジャー感を強く感じるのは、アートワークの素晴らしさだ。このライト・ブルーを基調にしたクリアーな色彩感は、彼が大好きな佐藤博『awakening』がモチーフだよね、きっと。タイトルはリチャード・バックの小説からの引用だそうだけど、そういえば吉川忠英の79年作も、同じパターンで『ILLUSION』と名付けられていたっけ…。

クニモンド君に対していつも感心させられるのは、愛情と敬意を詰め込んだ引用術の巧みさとそのセンス。スターターの<スーパー・ジェネレイション>は、明らかに雪村いづみ『スーパー・ジェネレイション』へのリスペクトを込めた自作曲で、それはライナーやいくつかのインタビューでも指摘されているようだ。でもこの曲には、もうワンステップ、いやツー・ステップほど、奥の深い仕掛けがしてある。

つまりこの曲には、そもそもの元ネタがあって。実は、同じアルファからデビューした朝比奈マリアのメロウ・ディスコティークなナンバー<心のままに>、がそれなのだ。特にイントロの螺旋を描くような豪華絢爛なストリングス・アレンジがソックリで…。おそらくストリング・アレンジのシンリズムに原曲を聴かせた上でアレンジを任せたのだと思うが、分かる人にはこうした諸々がジンワリ伝わる。しかもこの朝比奈マリアは、そう、雪村いづみの娘さんなのダ。だから自分は聴いてすぐ、「こりゃあ、やりやがったなァ〜」とほくそ笑んでしまったワケ。オマケに原曲アレンジは、ハーヴィー・メイスン。バック・コーラスには山下達郎&吉田美奈子の声が聞こえる。

<スーパー・ジェネレイション>はたまたま元ネタに気づいてしまったけれど、「あ〜、このカンジ、何処かで聴いたコトある〜」と、デジャヴ感を抱かせるのかクニモンド流。ニューソウルとか、CTIとか、マイゼル・ブラザーズ絡みのブルーノート作品とか、そのあたりからのインフルエンスを、今よりチョッとだけ前のレア・グルーヴっぽい感性で蘇らせる。世間はシティポップに夢中でも、彼は少しジャズ寄りのスタンス。能天気な都会派ポップスにはせず、ピリリと辛いメッセージを注入したのも、これまでとは違っている。もしかして、今のフュージョン復興の兆しを歓迎しているのは、自分よりクニモンド君かもしれないなぁ。

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2024-04-24

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