furusawa

数日前にアップしたレコード・コレクターズ6月号【フュージョン・ベスト100 邦楽編】のポスト、普通の記事の10倍近い方が読みにいらしてて、いやぁ〜驚くばかり。前号の洋楽編もそうだったけれど、ホント、フュージョンはどうしちゃったの?って感じ。まぁ、世代や考え方や立場でフュージョン観が違うのは決して悪いことではなく、80年代後半からの画一的な “フュージョンはゴミじゃ!” 論から脱したコトは素直に喜ばしいと思う。ただ、周囲を見ようとしない保守的原理主義のヒトって、いつでも何処にもいるもので、アーティストと聴き手の距離が近ければ近いほど熱量が上がって、ひたすら盲目的になる傾向がある。ファン心理を持つことは結構だと思うし、コダワリを失くさないのは重要なコトでもあるけど、度が過ぎて石頭になれば嫌がられるだけ。そこの線引きは忘れないでほしいな。

そこでこの古澤良治郎とリー・オスカーの81年共演盤『あのころ』。これに票を投じたのは、どうやら自分だけだったみたいだが…

古澤良治郎は60年代終盤から活躍し始めたジャズ・ドラマーで、ナベサダや山下洋輔、板橋文雄などのグループに籍を置いたバリバリのヒト。しかし、70年後半に入ってからのクロスオーヴァー/フュージョンへのアプローチ方法が独特で、日本の田舎の原風景をメロディに綴ったような、心に残るハートウォームなサウンドを奏でる。それが、USのソウル・バンド:ウォーのハーモニカ奏者で唯一の白人メンバーでもあるリー・オスカー(デンマーク出身)と繋がり、このアルバムができた。

リー・オスカーといえば、哀愁漂う76年の<約束の地>が有名で、洗練の中にも郷愁感を漂わせるあたりが素晴らしく。そんなハーモニカ奏者が良治郎さんとコラボレイトしたこと自体が奇跡的で、その2人が互いのイメージ通りのことをカタチにすれば、それでもう名盤完成が約束されたようなモノだ。出てくる音をひと口で説明すれば、ソフトなイージー・リスニング・ジャズになるけれど、2人のバックに潜む音楽性を考えたら、やはりクロスオーヴァー・フュージョンかと。しかも長閑な和の叙情性を湛えている点ではかなり稀有な存在。アカデミックでもテクニカルでもないけれど、自分の和製フュージョン史の中では一点の曇りもない良心、言わば “ココロの名盤” なのである。

個人的には、自分がかつてCD化を提案した八木のぶお『MI MI AFRICA』(79年)と、ハーモニカ同士、同じようなポジションにあって、ランキングではどちらを選ぶ迷った。が今回は、ベスト100に選ばれるコトはないだろうなと思いつつ、より和を強く感じさせてくれる良治郎さんをチョイス。ランキングではやはり海外評価もある『MI MI AFRICA』になったけれど、他に良治郎さんを選ぶヒトはいなかったようで…

でもたとえ評価が上がらなくても、『あのころ」に対する自分の思い入れは変わらないし、後続作『たまには』とか、あのホノボノした独特の空気感の中に、一本だけは外さずにピ〜ンとテンション張っている感覚がたまらない。ノルタルジックな音だけど、こういうのは日本の音楽好きには普遍的な存在であってほしいな。





あのころ
古澤良治郎,リー・オスカー
日本コロムビア
1993-10-21