

少し前にご紹介したアレンジャー山川恵津子の自伝『編曲の美学』に連動する、CDコンピレーション『編曲の美学〜山川恵津子の仕事』ビクター編3枚組と、ポニーキャニオン編2枚組を合わせて頂戴した。タワーレコード限定企画。自分も寄稿させていただいてる書籍も、このコンピ2作も、企画・制作のスタッフは、ほとんどがよく知っている顔ぶれ。そもそもご本人とも東北新幹線のCD化が取り持ったご縁で、今では「恵津姐」「とっつぁん」と呼び合う間柄だったりする。
トータルCD5枚もあるので、まださわり程度しか聴けてないけれど、アイドル系を中心に、よく知る曲もあれば、何となく聴き覚えのある曲、アーティストは知ってても聴いたことのない曲、まるで知らないアイドルの曲と、中身は様々。そもそも自分は、ポップスは好きでもアイドルや歌謡曲には興味が薄く、あまりマトモに聴いてきてない。…というか、ずーっと敬遠気味だった
でもそれをこうして山川恵津子ワークスを軸に並べてみると、見事にひとつのカラーで繋がっていると感じる。アレンジ自体はバラエティに富んでいても、コードの積み方や楽器の鳴らし方、コーラスの端々に山川マジックが潜んでいる。それこそが、このシリーズの冠である “編曲の美学” だ。
一方でコンピを流して本をペラペラ繰っていると、自分がどうしてアイドル物を敬遠してきたか、そこに改めて気づかされたりも。これはいみじくも恵津姐自身が書いているのだけれど、「アイドルとのエピソードはない!」ということ。これが象徴的だ。アイドル中心に1000曲越えの作編曲を手掛けている恵津姐でさえ、当のアイドルと会うことはほとんどなかったというのだ。それこそこの本が出て、約40年前に楽曲提供した元アイドルたちと初めて会った、なんてご当人がSNSに画像を上げていたくらい。でもコレって、素に考えると、チョッと変じゃないの?
これは何も恵津姐が悪いワケじゃなく、アイドルや歌謡曲の制作手法がずっーっと昔からイビツなまま来ている、ということ。きっと業界入りした音楽家のほとんどが、「そういうものだ」と刷り込まれ、何の疑問も抱かずにきてしまったのだろう。作詞・作曲・編曲の各先生方が、ロクに歌う本人を知らぬまま、作品を作っているだなんて、一般リスナーは思うまい。売れっ子やキャリアのある歌い手の仕事なら、「コレは誰々の曲だから…」と言われれば済むだろうが、ポッと出の新人や若手がどんな歌い手かなんて、それこそ知る由もない。服飾の世界なら、高級なオーダーメイドのスーツを採寸表だけで作る、生地やスタイルは作る人のイメージで、なんてあり得ない。それじゃあ吊るしと大して変わらないじゃないか。
どんな分野にも、業界の常識は世の非常識、なんてコトがある。アイドル・ソングの制作現場は、まさにコレだ。アレンジャーだって、アレコレとリファレンスを提示されるより、歌う本人と直に接した方が、より強く創造力を刺激されるのではないか。でもそれがなかなか叶わないというコトは、裏を返せば、アイドルにとっての音楽って、それだけ軽いモノなのか?と思えてしまう。むかしのアイドルは、イコール・シンガーだったけれど、いつからか各フィールドにアイドルが登場し、歌以外にも露出する手段が増えて、音楽は人気アイドルを売り出すためのツールのひとつに過ぎなくなった。でもビートルズに始まりロック・ファンとして音楽観を育んできた自分には、その無下な扱いにどうも納得がいかない。それもあって自分はアイドルの世界から一定の距離を置いてきた。洋楽に日本的なアイドル・スターが少ないのも分かる気がする。
でも若手の作詞・作曲・編曲家、ミュージシャンにとって、潤沢な制作費が用意されるアイドル・ソングは、いろんなトライアルや自己研鑽ができる貴重な登竜門的現場でもある。ディレクターの指示に沿ってさえいれば、だが。そしてヒットが出ればフィードバックも大きく、次の仕事へと繋がっていく。ただそれを厳しい締切の中で継続していくのは並大抵ではなく、実力とセンス、そして弛まぬ努力が必要。そしてそれをこなしていける人だけが、真のプロフェッショナルなのだ。この本を読み、そしてコンピを聴いていると、その大変さが手に取るように分かる。近年、昭和歌謡やアイドル・ポップスの再評価が進むのは、シティポップ人気やDJたちの活躍と関連しつつも、根幹には、日本の音楽界に真のプロフェッショナルが減ってきている、というコトと関係があるのではないか。
女だてらに40年以上、業界第一線で頑張ってきた恵津姐。改めてリスペクトですわ。
【ビクター 編】
<Disc-1>
1. 東北新幹線 / UP AND DOWN
2. 羽根田征子 / ENCORE
3. M-Rie / SEEDS of HAPPINESS―しあわせのたね―
4. 山口由子 /不安な果実
5. 岩崎宏美 / カサノバL
6. 岡本舞子 / ファッシネイション
7. 小山茉美 / 古いハンドバッグ
8. 石井明美 / YOU MAKE ME HAPPY
9. 小泉今日子 / 100%男女交際
10. 立花理佐 / キミはどんとくらい
11. 児島未散 / なまいきCinq
12. 宇都美慶子 / 小さな逃避行
13. 宮村優子 / あなたの窓辺に 『魔法少女ミルキー☆ストロベリー』
14. 須賀響子 / 近道したい
15. 志賀真理子 / フリージアの少年
16. Qlair / リボンのないプレゼント
17. 小山茉美 /ディスタンスの真夏 Night Tempo Remix
<Disc-2>
1. 寺嶋由芙 / みんな迷子
2. 志賀真理子 / 金のリボンでROCKして
3. 小幡洋子 / 不思議色ハピネス
4. 岡本舞子 / エデンの園
5. 風見りつ子 / アヴァンチュリエ
6. 児島未散 / 悲しくなんて
7. 長山洋子 / な・ま・い・き
8. 笠原弘子 / 夢上の楼閣
9. 彩恵津子 / とめてパシオ
10. 岩崎宏美 / 月とシャボン
11. 宮里久美 / WATER BLUE
12. 亜蘭知子 / Busy City
13. 広瀬香美 / ぜったい信じない
14. 桜井 智 / ICE CUBE NIGHT
15. 小泉今日子 / 片想い
16. 又紀仁美 / Juliet
17. 山川恵津子 / なみだは媚薬
<Disc-3>
1. 岡本舞子 /ファンレター
2. 小山茉美 /ディスタンスの真夏
3. 奥菜 恵 / 守ってあげる
4. ビートたけし/ SUNSHINE
5. 河内りえ / もぎたての恋
6. 仁藤優子 / NO, NO, NO, NO, YES
7. 芳本美代子/ Groovy Glory
8. MARLENE / Secret Love
9. 鷲尾いさ子 / 蝶の骨
10. 野村宏伸 / APRIL FOOLあれからの僕は
11. 松本伊代 / お楽しみは これから…
12. 桜井 智 / 9月の部屋
13. フルーツ・パラダイス/ そっとALARM
14. こんぺいとう / せつない童話
15. 葉山レイコ / たそがれ時間
16. 酒井法子 / どうなるかわからないけど
17. 中島愛 / ゆびさきの雨
18. 岩崎宏美 / 好きにならずにいられない (ALBUM VERSION)
【ポニーキャニオン編】
<Disc-1>
1. 山川恵津子 / 恋の神様BGM
2. 渡辺満里奈 / 100年分のGLORY
3. おニャン子クラブ / 避暑地の森の天使たち
4. 渡辺満里奈 / ホワイトラビットからのメッセージ
5. 松本典子 / Kissが届かない
6. CoCo /シャボンのため息
7. 野田幹子 / 2度目のキスは探さないで
8. SAKUra / 漕ぎ出せ♪ショコラティエ〜これって恋ですか?〜(オリジナルVer.)
9. タイナカ彩智 / 秋緒 -Autumn Moods- (アークナイツ・イメージ曲) *初CD化
10. 三浦理恵子 / 約束のポニーテール
11. 新田恵利 / メビウスの二人
12. 生稲晃子 / オ・メ・デ・ト・ウ!
13. 西川のりお&小林千絵 / おじさんの気持ちも知らないで〜哀愁のシイタケ族〜
14. 真璃子 / 恋、みーつけた (アルバムVer.)
15. 八神純子 / ジェラス
16. 森の磯松 / Happy Line
17. 山川恵津子 / Do Yah!
<Disc-2>
1. おニャン子クラブ / アンブレラ・エンジェル
2. 新田恵利 with おニャン子クラブ / ロマンスは偶然のしわざ
3. 三浦理恵子 / 天使のいる渚
4. 西田ひかる / Dear My Friends
5. つちやかおり / マニキュアは似合わない
6. 岩崎良美 / 不思議な遊園地
7. 谷山浩子 / てんぷら☆さんらいず (シングルVer.)
8. 本間かおり / 真夏のデート
9. 松原みき / モダンに殺気
10. KUWAE & Mr. J / 恋をゲームにしないで
11. 横山知枝 / Hey! Baby
12. 西村知美 / シンデレラの卵
13. 宇沙美ゆかり / 少し淋しいだけ
14. 片岡鶴太郎 / ゴーストブスターズ (インストVer )
15. アグネス・チャン / ひとつだけ
16. 森川美穂 / Do Yah!
17. 山川恵津子 / UTOPIA *新録音

一方でコンピを流して本をペラペラ繰っていると、自分がどうしてアイドル物を敬遠してきたか、そこに改めて気づかされたりも。これはいみじくも恵津姐自身が書いているのだけれど、「アイドルとのエピソードはない!」ということ。これが象徴的だ。アイドル中心に1000曲越えの作編曲を手掛けている恵津姐でさえ、当のアイドルと会うことはほとんどなかったというのだ。それこそこの本が出て、約40年前に楽曲提供した元アイドルたちと初めて会った、なんてご当人がSNSに画像を上げていたくらい。でもコレって、素に考えると、チョッと変じゃないの?
これは何も恵津姐が悪いワケじゃなく、アイドルや歌謡曲の制作手法がずっーっと昔からイビツなまま来ている、ということ。きっと業界入りした音楽家のほとんどが、「そういうものだ」と刷り込まれ、何の疑問も抱かずにきてしまったのだろう。作詞・作曲・編曲の各先生方が、ロクに歌う本人を知らぬまま、作品を作っているだなんて、一般リスナーは思うまい。売れっ子やキャリアのある歌い手の仕事なら、「コレは誰々の曲だから…」と言われれば済むだろうが、ポッと出の新人や若手がどんな歌い手かなんて、それこそ知る由もない。服飾の世界なら、高級なオーダーメイドのスーツを採寸表だけで作る、生地やスタイルは作る人のイメージで、なんてあり得ない。それじゃあ吊るしと大して変わらないじゃないか。
どんな分野にも、業界の常識は世の非常識、なんてコトがある。アイドル・ソングの制作現場は、まさにコレだ。アレンジャーだって、アレコレとリファレンスを提示されるより、歌う本人と直に接した方が、より強く創造力を刺激されるのではないか。でもそれがなかなか叶わないというコトは、裏を返せば、アイドルにとっての音楽って、それだけ軽いモノなのか?と思えてしまう。むかしのアイドルは、イコール・シンガーだったけれど、いつからか各フィールドにアイドルが登場し、歌以外にも露出する手段が増えて、音楽は人気アイドルを売り出すためのツールのひとつに過ぎなくなった。でもビートルズに始まりロック・ファンとして音楽観を育んできた自分には、その無下な扱いにどうも納得がいかない。それもあって自分はアイドルの世界から一定の距離を置いてきた。洋楽に日本的なアイドル・スターが少ないのも分かる気がする。
でも若手の作詞・作曲・編曲家、ミュージシャンにとって、潤沢な制作費が用意されるアイドル・ソングは、いろんなトライアルや自己研鑽ができる貴重な登竜門的現場でもある。ディレクターの指示に沿ってさえいれば、だが。そしてヒットが出ればフィードバックも大きく、次の仕事へと繋がっていく。ただそれを厳しい締切の中で継続していくのは並大抵ではなく、実力とセンス、そして弛まぬ努力が必要。そしてそれをこなしていける人だけが、真のプロフェッショナルなのだ。この本を読み、そしてコンピを聴いていると、その大変さが手に取るように分かる。近年、昭和歌謡やアイドル・ポップスの再評価が進むのは、シティポップ人気やDJたちの活躍と関連しつつも、根幹には、日本の音楽界に真のプロフェッショナルが減ってきている、というコトと関係があるのではないか。
女だてらに40年以上、業界第一線で頑張ってきた恵津姐。改めてリスペクトですわ。
【ビクター 編】
<Disc-1>
1. 東北新幹線 / UP AND DOWN
2. 羽根田征子 / ENCORE
3. M-Rie / SEEDS of HAPPINESS―しあわせのたね―
4. 山口由子 /不安な果実
5. 岩崎宏美 / カサノバL
6. 岡本舞子 / ファッシネイション
7. 小山茉美 / 古いハンドバッグ
8. 石井明美 / YOU MAKE ME HAPPY
9. 小泉今日子 / 100%男女交際
10. 立花理佐 / キミはどんとくらい
11. 児島未散 / なまいきCinq
12. 宇都美慶子 / 小さな逃避行
13. 宮村優子 / あなたの窓辺に 『魔法少女ミルキー☆ストロベリー』
14. 須賀響子 / 近道したい
15. 志賀真理子 / フリージアの少年
16. Qlair / リボンのないプレゼント
17. 小山茉美 /ディスタンスの真夏 Night Tempo Remix
<Disc-2>
1. 寺嶋由芙 / みんな迷子
2. 志賀真理子 / 金のリボンでROCKして
3. 小幡洋子 / 不思議色ハピネス
4. 岡本舞子 / エデンの園
5. 風見りつ子 / アヴァンチュリエ
6. 児島未散 / 悲しくなんて
7. 長山洋子 / な・ま・い・き
8. 笠原弘子 / 夢上の楼閣
9. 彩恵津子 / とめてパシオ
10. 岩崎宏美 / 月とシャボン
11. 宮里久美 / WATER BLUE
12. 亜蘭知子 / Busy City
13. 広瀬香美 / ぜったい信じない
14. 桜井 智 / ICE CUBE NIGHT
15. 小泉今日子 / 片想い
16. 又紀仁美 / Juliet
17. 山川恵津子 / なみだは媚薬
<Disc-3>
1. 岡本舞子 /ファンレター
2. 小山茉美 /ディスタンスの真夏
3. 奥菜 恵 / 守ってあげる
4. ビートたけし/ SUNSHINE
5. 河内りえ / もぎたての恋
6. 仁藤優子 / NO, NO, NO, NO, YES
7. 芳本美代子/ Groovy Glory
8. MARLENE / Secret Love
9. 鷲尾いさ子 / 蝶の骨
10. 野村宏伸 / APRIL FOOLあれからの僕は
11. 松本伊代 / お楽しみは これから…
12. 桜井 智 / 9月の部屋
13. フルーツ・パラダイス/ そっとALARM
14. こんぺいとう / せつない童話
15. 葉山レイコ / たそがれ時間
16. 酒井法子 / どうなるかわからないけど
17. 中島愛 / ゆびさきの雨
18. 岩崎宏美 / 好きにならずにいられない (ALBUM VERSION)
【ポニーキャニオン編】
<Disc-1>
1. 山川恵津子 / 恋の神様BGM
2. 渡辺満里奈 / 100年分のGLORY
3. おニャン子クラブ / 避暑地の森の天使たち
4. 渡辺満里奈 / ホワイトラビットからのメッセージ
5. 松本典子 / Kissが届かない
6. CoCo /シャボンのため息
7. 野田幹子 / 2度目のキスは探さないで
8. SAKUra / 漕ぎ出せ♪ショコラティエ〜これって恋ですか?〜(オリジナルVer.)
9. タイナカ彩智 / 秋緒 -Autumn Moods- (アークナイツ・イメージ曲) *初CD化
10. 三浦理恵子 / 約束のポニーテール
11. 新田恵利 / メビウスの二人
12. 生稲晃子 / オ・メ・デ・ト・ウ!
13. 西川のりお&小林千絵 / おじさんの気持ちも知らないで〜哀愁のシイタケ族〜
14. 真璃子 / 恋、みーつけた (アルバムVer.)
15. 八神純子 / ジェラス
16. 森の磯松 / Happy Line
17. 山川恵津子 / Do Yah!
<Disc-2>
1. おニャン子クラブ / アンブレラ・エンジェル
2. 新田恵利 with おニャン子クラブ / ロマンスは偶然のしわざ
3. 三浦理恵子 / 天使のいる渚
4. 西田ひかる / Dear My Friends
5. つちやかおり / マニキュアは似合わない
6. 岩崎良美 / 不思議な遊園地
7. 谷山浩子 / てんぷら☆さんらいず (シングルVer.)
8. 本間かおり / 真夏のデート
9. 松原みき / モダンに殺気
10. KUWAE & Mr. J / 恋をゲームにしないで
11. 横山知枝 / Hey! Baby
12. 西村知美 / シンデレラの卵
13. 宇沙美ゆかり / 少し淋しいだけ
14. 片岡鶴太郎 / ゴーストブスターズ (インストVer )
15. アグネス・チャン / ひとつだけ
16. 森川美穂 / Do Yah!
17. 山川恵津子 / UTOPIA *新録音
![]() | ![]() |