えとらんぜ

比屋定篤子『ささやかれた夢の話』に、全然ささやかじゃない衝撃を受けて、早25年。<まわれ まわれ><光のダンス><メビウス>など、数々の名曲を書いていた小林治郎が、新しいユニット:えとらんぜを立ち上げ、1stアルバムを自主リリースした。ボサノヴァ・ベースのシティポップに掛けては、今も彼の右に出るものはない、そう言い切ってしまいたいほどのソングライター/サウンドメイカーのご帰還。音楽シーンはいろいろ移ろえど、彼自身は全然ブレてなくて、メッチャ感激です。

比屋定さんとの3枚のアルバムは、フォーマットとしては彼女のソロだったが、実質的には比屋定・小林治郎のシンガー&ソングライター・ユニットであった。しかし3枚のアルバムを出したあと、比屋定さんは郷里の沖縄へ。そこで彼は新人女性シンガーを発掘し、ナミノート(=波の音)なるユニットで13年にデビュー。これも素晴らしかったが長続きせず、2枚のアルバムを出して活動停止。そしてこの“えとらんぜ”が、3度目の本格的チームになる。

今回の相方:尾張文重(のぶえ)は、自主制作でミニ・アルバムを出しているシンガー。自分は今回初めて知ったけれど、やはり比屋定さん同様、自然体のヴォーカルに、ポッと芯が熱くなるような情感を灯すタイプ。“えとらんぜ” という名前もそうだけれど、何処か昭和風のレトロ・モダンな風情を感じさせる。欧州系のクールネスを持っていたナミノートよりも、ふわっと熱気を孕んでいるのは、きっとこの歌声のせいなのだろう。

Rock with Youしたドラム・フィルから始まる<明日へRide On Time>から、まさにデジャ・ヴー感のあるメロディが疾走し、アルバムの最後まで胸をキュンキュンさせる。文重嬢の歌声は決して美声ではないが、表情が豊かで、人懐っこさがあって、気がつくと胸元に入ってきている感覚。松本圭司 (kyd), 外園一馬 (g) を始めとするミュージシャンのキャスティングもツボを得ていて、ウーリッツァー、ローズ、生ピアノの使い分け、トロンボーンやフルートのリード使用、そしてマンドリン、エレキ・シタール、サンプリングのメロトロンやソリーナ、そうした飛び道具的な楽器のチョイスにもセンスの良さが。楽器を鳴らし過ぎず、全体の音数を抑えているから、各楽器の音色が自ずと浮き上がってくるのだな。<コバルトアワー2022>なんてタイトルにも、流線形クニモンド瀧口クンに共通する先人たちへのリスペクトが垣間見える。こりゃあ早々にライヴも観たいなぁ〜

CDご購入は以下。
https://spacebossanova1997.stores.jp/items/66621e71dda673082c74873f
https://saborkankaku.base.shop