角松敏生 PERFORMANCE 2024 C.U.M. Vol.1 @TOKYO DOME CITY HALL2daysの2日目。総合エンターテイメント『MILAD』後の初ライヴというコトで、まずはようやく角松が戻るべきところへ戻ってきたな、と喜ばしく。…とはいえ、いきなり小芝居で始めてしまうあたり、まだ未練があるのか?と訝しく思ったりも。FM NORTH WAVE(北海道)で持っている番組内のラジオ・ドラマと連動していて、毎回内容が異なる連続モノだそうだが、そんなモン、全国ツアーの日替わりメニューとしてやられても…。随所に差し込まれた小ネタに笑うだけで、超マニアックな追っかけファン以外は分からねェよ。
(以下ネタバレあり)
MCで「分からない人は忘れて」なんて言ってたが、それは失礼というか、何事にもNOと言わない角松信者たちに甘えてる、と感じてしまうな。それだったら、その小芝居の時間で2曲ぐらい多くやってくれた方が、角松の音楽を聴きに来たファンは遥かに嬉しいはず。が、MCでは「MILADは自分のエクササイズにみんなを付き合わせてしまった」と殊勝なコトも言っていたので、多少は自覚しているのか…。結局、コア・ファン以外からの賛辞がほとんど聞こえてこないまま終わったMILADは、自分に言わせたら壮大なマスターベーションだったと思う。
先月リリースしたニュー・アルバム『MAGIC HOUR』は、角松がちゃんと音楽に戻ってきたことだけで掴みはOK。けれど、それもまた“C.U.M.” (Urban Copntemporary Music)とか、取って付けたような冠を持ち出していて。シティポップと呼ばれたくない、という気持ちはよく分かるけれど、今ドキそんなことは、ポッと出のド新人だって言ってることだ。それをキャリア40年越えの大御所がMCでウダウダ言っても、カッコ悪いだけじゃないの? 「アルバムを世に出せば、自分の手から離れていく。だから聴き手の皆さんが好きなように呼んでください」とか、言えんのか。 その方がよっぽど潔いし、ベテランらしい。これはもうコダワリじゃなく、天邪鬼のたわごとだな。
そもそもUrban Contemporary Musicというのも、シティポップの一大要素に当たるAOR (Adult Oriented Rock) / Adult Contemporary Music の言い換えに過ぎず、こじつけ感が強い。日本ではあまり問題になっていないけど、2020年のBlack Lives Matter以降、米国では差別用語的に受け取られる言葉=Urbanを看板に掲げちゃったコト自体、チョッと引っ掛かっている。何せ、アリアナ・グランデやテイラー・スウィフト、ドレイクらが所属するリパブリック・レコードがNGワードに指定し、グラミー賞を運営するレコーディング・アカデミーは、『最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門』を『最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門』を改称したほど。Mrs. GREEN APPLEの<コロンブス>問題じゃないけど、最近はいろいろ気をつけないとコワイよォ〜 自分でさえ、あれ以来アーバンを避けてアーベイン(urbane)というワードを使うようになった。
音楽的方向性は『CITYLIGHTS DANDY』に近く、スタイルもクオリティも、ほとんど想定内。現行J-POPシーンに照らせば、高度な角松クオリティは維持されているものの、角松作品としては進化らしい進化はない。個人的に一番「オォ〜」と思ったのは、森俊之のストリングス・アレンジ。今作の目玉的になっているドラマー:伊吹文裕の起用は、7〜8年前から彼に注目していた自分としては遅すぎると感じるけれど、レギュラー・ドラマー:山本真央樹との使い分けに関しては、多少の疑問もある。だってこの2人、手数の真央樹クンに対し、沼澤尚に通じるグルーヴ・ドラマーの伊吹クンと、タイプが全然違う。だから曲によって「(山本)真央樹じゃなく、伊吹の方が良かったんじゃないの?(逆もアリ)」と思ったりして、角松の意図が見えにくい。伊吹クンとは今年何度か顔を合わせていて、「やっと角松さんに呼んでもらえました!」と素直に喜んでいたけれど。
前にも書いたことがあるが、デビュー以前から付き合いのある角松は、自分にとってのメンター的存在。学生時代、彼が自分にエアプレイを聴かせてくれなければ、今の自分はなかった。それだけに、角松は常に自分の指針であってほしい。解凍後で言えば『INCARNATIO』や『PRAYER』はまさにそれに相応しい進化系作品だったが、『MAGIC HOUR』にはそれほどの求心力が感じられない。オールド・ファンなら素直に馴染んでしまう都会的グルーヴがあるアルバムだけど、角松カタログで見れば、ほぼアヴェレージ・レヴェルの内容。コレでは賛辞に値しないのだ、自分的は。それこそ角松には、「失礼しましたぁ〜」「お見逸れしましたぁ〜」と言いたい。「お代官様、お許しを〜〜」と平伏したい。そんな超弩級のアルバムを創って欲しいのだ。でも『 MAGIC HOUR』はむかし取った杵柄を今風に再構成したようなアルバムだから、素直に納得できる作風ではあるものの、寄り道から本線に復帰した、というのが、自分にとっての最大の収穫。Vol.2があるのだろうから、次回はもっと驚きや発見、インパクトのあるものを望みたい。
で、その『MAGIC HOUR』をフィーチャーしてのライヴ。小芝居はともかく、それを終えてからのライヴ・パフォーマンスは見事な安定感。新曲と定番曲のバランスも心地よく、映像を駆使したステージングもかつてないほど新しいモノだった。リスト・ライトの演出は、ユーミンがドーム・ツアーで使っていたFre Flow (フリフラ) を知っていると子供騙しもイイトコだけれど、ホール・クラスのライヴ・エンタメではあれが精一杯かな? 東京スペシャルは、吉沢梨絵とのデュエットと真央樹&伊吹のダブル・ドラムス。前述通り、互いの持ち味が相殺されちゃったキライはあるので、伊吹クン単独で一回観たかったと思うものの、ダイナミクスはさすが。思わず、以前スティーヴ・ガッド&江口信夫でライヴをやったことがあったな、と思い出した。セクション不在で負担が増した本田雅人も、久しぶりに豪快なプレイで納得。
ちなみにこの日は、<I Can’t Stop The Night>の元ネタであるアンジェラ・ボフィル(produced by The System)の訃報が午前中に。彼女に思いを馳せて角松の曲を聴いていたお客様は、果たしてどれくらいいたのかな?
何れにせよ、元気に活動を続けてくれるのが第一。ダンスや演劇を交えた総合エンターテイメント構想自体を否定するつもりなど、微塵もない。けれど脚本作りや演出に時間を費やしすぎて、アルバム作りがおざなりになってしまった。それがMILADの汚点。ミュージシャンがやるんだから、優先順位が間違ってるだろ?、というのが、自分がMILADを評価しない理由だ。作品の内容ではない。それ以前に、成立の土台が既に間違っている。あれでもしサントラ的な『INHERIT THE LIFE』が良ければ、ステージも観てみるか、という気になったはずだが、残念ながら2枚のアルバムは解凍後のオリジナル作でワースト・レベルでしかなく、ライヴを観る気は起きなかった。
そこからの本線復帰なので、アルバムもライヴもまずは歓迎。だからこそ重要なのはVol.2になるだろう。リアル・ミュージシャンの本気を見せつけている、という点では、常にJ-POPシーンのトップ・クラスに君臨しているけれど、作品的にはこんなモンじゃあないでしょ? もっともっとイケるでしょ? それがどんなに大変か、分かっちゃいるけど、言い訳は聞かない。それこそコア・ファンなんて何をやっても認めてくれちゃうのだから、そこには目もくれず、広くシーンから注目されるアルバム作りを目指して欲しいし、凍結前はそういうコトができつつあったはずだと思う。スバリ、シティポップだの、C.U.M.だのというコダワリより、もっと他に追求すべきところがあるんじゃないの?、という話です。
[Set List]
01. Lovers at Dusk
02. Cryin’ All Night
03. Lost My Heart In The Dark
04. I Can’t Stop The Night
05 I’ll Never Let You Go
06. After Hours
07. Ramp In
08. Mermaid Princess
09. Crows
10. Wake Up To The Love
11. Power Of Nightfall
12. Turn On Your Lights
13. Paradise In Your Eyes
14. 桃色の雲
15. SHIBUYA
16. Tokyo Tower
17. Magic Hour
18. ハナノサクコロ
―ENCORE―
19.WAになっておどろう
20.Take You To The Sky High
―MORE ENCORE―
21.君にあげる
R.I.P. Angela Bofill
《amazon》
《Tower Records はココから》
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先月リリースしたニュー・アルバム『MAGIC HOUR』は、角松がちゃんと音楽に戻ってきたことだけで掴みはOK。けれど、それもまた“C.U.M.” (Urban Copntemporary Music)とか、取って付けたような冠を持ち出していて。シティポップと呼ばれたくない、という気持ちはよく分かるけれど、今ドキそんなことは、ポッと出のド新人だって言ってることだ。それをキャリア40年越えの大御所がMCでウダウダ言っても、カッコ悪いだけじゃないの? 「アルバムを世に出せば、自分の手から離れていく。だから聴き手の皆さんが好きなように呼んでください」とか、言えんのか。 その方がよっぽど潔いし、ベテランらしい。これはもうコダワリじゃなく、天邪鬼のたわごとだな。
そもそもUrban Contemporary Musicというのも、シティポップの一大要素に当たるAOR (Adult Oriented Rock) / Adult Contemporary Music の言い換えに過ぎず、こじつけ感が強い。日本ではあまり問題になっていないけど、2020年のBlack Lives Matter以降、米国では差別用語的に受け取られる言葉=Urbanを看板に掲げちゃったコト自体、チョッと引っ掛かっている。何せ、アリアナ・グランデやテイラー・スウィフト、ドレイクらが所属するリパブリック・レコードがNGワードに指定し、グラミー賞を運営するレコーディング・アカデミーは、『最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門』を『最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門』を改称したほど。Mrs. GREEN APPLEの<コロンブス>問題じゃないけど、最近はいろいろ気をつけないとコワイよォ〜 自分でさえ、あれ以来アーバンを避けてアーベイン(urbane)というワードを使うようになった。
音楽的方向性は『CITYLIGHTS DANDY』に近く、スタイルもクオリティも、ほとんど想定内。現行J-POPシーンに照らせば、高度な角松クオリティは維持されているものの、角松作品としては進化らしい進化はない。個人的に一番「オォ〜」と思ったのは、森俊之のストリングス・アレンジ。今作の目玉的になっているドラマー:伊吹文裕の起用は、7〜8年前から彼に注目していた自分としては遅すぎると感じるけれど、レギュラー・ドラマー:山本真央樹との使い分けに関しては、多少の疑問もある。だってこの2人、手数の真央樹クンに対し、沼澤尚に通じるグルーヴ・ドラマーの伊吹クンと、タイプが全然違う。だから曲によって「(山本)真央樹じゃなく、伊吹の方が良かったんじゃないの?(逆もアリ)」と思ったりして、角松の意図が見えにくい。伊吹クンとは今年何度か顔を合わせていて、「やっと角松さんに呼んでもらえました!」と素直に喜んでいたけれど。
前にも書いたことがあるが、デビュー以前から付き合いのある角松は、自分にとってのメンター的存在。学生時代、彼が自分にエアプレイを聴かせてくれなければ、今の自分はなかった。それだけに、角松は常に自分の指針であってほしい。解凍後で言えば『INCARNATIO』や『PRAYER』はまさにそれに相応しい進化系作品だったが、『MAGIC HOUR』にはそれほどの求心力が感じられない。オールド・ファンなら素直に馴染んでしまう都会的グルーヴがあるアルバムだけど、角松カタログで見れば、ほぼアヴェレージ・レヴェルの内容。コレでは賛辞に値しないのだ、自分的は。それこそ角松には、「失礼しましたぁ〜」「お見逸れしましたぁ〜」と言いたい。「お代官様、お許しを〜〜」と平伏したい。そんな超弩級のアルバムを創って欲しいのだ。でも『 MAGIC HOUR』はむかし取った杵柄を今風に再構成したようなアルバムだから、素直に納得できる作風ではあるものの、寄り道から本線に復帰した、というのが、自分にとっての最大の収穫。Vol.2があるのだろうから、次回はもっと驚きや発見、インパクトのあるものを望みたい。
で、その『MAGIC HOUR』をフィーチャーしてのライヴ。小芝居はともかく、それを終えてからのライヴ・パフォーマンスは見事な安定感。新曲と定番曲のバランスも心地よく、映像を駆使したステージングもかつてないほど新しいモノだった。リスト・ライトの演出は、ユーミンがドーム・ツアーで使っていたFre Flow (フリフラ) を知っていると子供騙しもイイトコだけれど、ホール・クラスのライヴ・エンタメではあれが精一杯かな? 東京スペシャルは、吉沢梨絵とのデュエットと真央樹&伊吹のダブル・ドラムス。前述通り、互いの持ち味が相殺されちゃったキライはあるので、伊吹クン単独で一回観たかったと思うものの、ダイナミクスはさすが。思わず、以前スティーヴ・ガッド&江口信夫でライヴをやったことがあったな、と思い出した。セクション不在で負担が増した本田雅人も、久しぶりに豪快なプレイで納得。
ちなみにこの日は、<I Can’t Stop The Night>の元ネタであるアンジェラ・ボフィル(produced by The System)の訃報が午前中に。彼女に思いを馳せて角松の曲を聴いていたお客様は、果たしてどれくらいいたのかな?
何れにせよ、元気に活動を続けてくれるのが第一。ダンスや演劇を交えた総合エンターテイメント構想自体を否定するつもりなど、微塵もない。けれど脚本作りや演出に時間を費やしすぎて、アルバム作りがおざなりになってしまった。それがMILADの汚点。ミュージシャンがやるんだから、優先順位が間違ってるだろ?、というのが、自分がMILADを評価しない理由だ。作品の内容ではない。それ以前に、成立の土台が既に間違っている。あれでもしサントラ的な『INHERIT THE LIFE』が良ければ、ステージも観てみるか、という気になったはずだが、残念ながら2枚のアルバムは解凍後のオリジナル作でワースト・レベルでしかなく、ライヴを観る気は起きなかった。
そこからの本線復帰なので、アルバムもライヴもまずは歓迎。だからこそ重要なのはVol.2になるだろう。リアル・ミュージシャンの本気を見せつけている、という点では、常にJ-POPシーンのトップ・クラスに君臨しているけれど、作品的にはこんなモンじゃあないでしょ? もっともっとイケるでしょ? それがどんなに大変か、分かっちゃいるけど、言い訳は聞かない。それこそコア・ファンなんて何をやっても認めてくれちゃうのだから、そこには目もくれず、広くシーンから注目されるアルバム作りを目指して欲しいし、凍結前はそういうコトができつつあったはずだと思う。スバリ、シティポップだの、C.U.M.だのというコダワリより、もっと他に追求すべきところがあるんじゃないの?、という話です。
[Set List]
01. Lovers at Dusk
02. Cryin’ All Night
03. Lost My Heart In The Dark
04. I Can’t Stop The Night
05 I’ll Never Let You Go
06. After Hours
07. Ramp In
08. Mermaid Princess
09. Crows
10. Wake Up To The Love
11. Power Of Nightfall
12. Turn On Your Lights
13. Paradise In Your Eyes
14. 桃色の雲
15. SHIBUYA
16. Tokyo Tower
17. Magic Hour
18. ハナノサクコロ
―ENCORE―
19.WAになっておどろう
20.Take You To The Sky High
―MORE ENCORE―
21.君にあげる
R.I.P. Angela Bofill
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《Tower Records はココから》
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VOCALAND
avex infinity
2024-06-26
《Tower Records はココから》
別に本人が広く注目されることを望んでいるわけでもないでしょう。
好きにやらせてあげてください。
そして、もしもコアファンを「何も考えず盲目的に受け入れている馬鹿ファン」と思われているなら心外です。
新しいものを受け入れて、何をしようとしているか理解するにも、努力は必要ですから。