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ビクター《マスターピース・コレクション》フィーメル・シティポップ名作選5作品が、7/3に発売。この《マスターピース・コレクション》シリーズでは、いつも解説だったり、監修だったりで参加させて戴いているが、今回は2作にライナーを寄稿。まずは5作の目玉的存在であるアン・ルイスの79年作『ピンク・キャット (英題 PINK PUSSY CAT) +5』を紹介したい。

アン・ルイスといえば、通常は<ラ・セゾン>や<六本木心中><あゝ無情>などのニュー・ウェイヴ系ロック歌謡のヒットでお馴染み。でもそこへ行く前に、シティポップと呼ぶに相応しい時期があった。そのタームで真っ先に押さえたいのが、このアルバム。その理由は、山下達郎プロデュースだからだ。

アンと山下達郎といえば、これはもうシティポップ定番<恋のブギ・ウギ・トレイン>である。若い人には、タツロー『JOY』のライヴ・ヴァージョンしか知らない人が少なくない気もするけど、これは元々タツローさんがアンに提供した曲。しかもこれまではシングル盤のみで、彼女のオリジナル・アルバムには未収。これまでに2度CD再発されている『ピンク・キャット』にも追加収録がなく、ベスト盤や各種編集盤でしか聴くことができなかった。それが今回、初めて『ピンク・キャット』にボーナス収録。しかも入るとなったら大盤振る舞いで、オリジナルの7インチ・ヴァージョン、6分半近い英語ヴァージョン<BOGGIE WOOGIE LOVE TRAIN>、そしてその長尺版を日本語にした<KOI NO BOOGIE WOOGIE TRAIN>と、ヴァージョン違いの3パターンが全部入っている。だからもぅ、それだけで “買い” なのだ。

このオリジナルの7インチ・ヴァージョンがアルバム未収だったのは、そもそもアルバム『ピンク・キャット』の後続シングルとして制作されたから。タツロー氏に拠れば、“ディスコ好きのアン・ルイスなのに、ディスコ・ビートの持ち歌がほとんどないのが不思議で作った”とのこと。当時CM にも使われたが、残念ながら、ようやっとオリコンのランクインした程度(89位)の小ヒットに終わっている。今ではポップ・クラシックと言っていいほどの人気曲だが、シティポップなんて括りがなかったその頃は、その程度の扱いだったのだ。

だいたい、この『ピンク・キャット』自体が、アンにとっては試金石的なアルバムだった。ナベプロ所属で歌謡曲〜芸能界的ポジションからデビューし、74年<グッド・バイ・マイ・ラブ>がようやくヒットしたものの、その後も苦戦。しかしユーミンに楽曲提供を受けた際のプロダクション・ワークを目の当たりにして、「自分もこうありたい」とアーティスト性に開眼。元々洋楽カヴァーをたくさん歌っていたコトもあって、彼女自身のイニシアチヴで、大胆にロック/ポップス指向を打ち出すことにした。そういうターニング・ポイントで作った一枚が、この『ピンク・キャット』なのである。

かくして本作は、当時のタツローのブレーンがこぞって参加。吉田美奈子との共作曲ももちろん入っている。ピアノ・バラード<シャンプー>は、タツロー自身が86年作『POCKET MUSIC』でセルフ・カヴァー。後に竹内まりやもラジオ番組用に録音し、シングルのカップリングにした。また<Just Another Night>は、後に大物ソングライターとして大出世するダイアン・ウォーレンの楽曲。当時の彼女はまだホンの駆け出しで、達郎作品の英詞を書いているアラン・オデイの紹介だったそう。ダイアンにとっては初めてレコードになった自作曲で、これで作曲家の道を諦めて田舎へ帰るのを思い止まった、というエピードがあるそうだ。

英詞のブルージーなロッキン・シャッフル<Lost In Hollywood>は、旧CDやウィキペディアにレインボーのカヴァーとあるが、これは間違いで、実際は同名異曲。オリジネイターは全く無名のローカル・バンドだから、出版社押しの楽曲だったのか? <ウォッカorラム>は当時恋仲だった桑名正博の提供。そしてアルバムのプロローグ/エピローグは、アン&ナンシー・ウイルソン姉妹率いるハートの<Dreamboat Annie>のカヴァー。オリジナルも同じような使い方だったから、コレはアン自身がハート・ファンだったのかも。

ボーナス5曲中、他の2曲はオリジナル<恋のブギ・ウギ・トレイン>のシングル・カップリングだった<愛イッツ・マイ・ライフ>(達郎=美奈子作品)と、加瀬邦彦提供の先行シングル<アイム・ア・ロンリー・レディ>のB面曲<ラブ・ミー・トゥナイト>。3枚のシングル盤の縮小復刻ジャケットが封入されているのも、ちょっとウレシイ。

アンのキャリアの中では、あまり目立たないポジションの『ピンク・キャット』ながら、シティポップ的なエピソードは満載。ちょっと目線を変えただけで、何となく聴いていた楽曲が俄然光り輝き出す、そういうコトがあるんだ、と教えてくれるアルバムだな。

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Tower Records