pecker

連日のうだるような暑さ。クーラーを効かせた仕事部屋に篭ってPCに向かっているとはいえ、そこを出れば灼熱地獄で、熱気を孕んだ空気が身体にまとわりついてくる。そこでちょっとした気分転換に手を伸ばしたのが、先月末に最近アナログ再発されたばかりのコレ、『ペッカー・パワー』。近年は少々名前を聞く機会が減っているものの、日本初のサルサ・バンド:オルケスタ・デル・ソルの創設者で、渡辺香津美率いるKYLYNでもメンバーに名を連ねたパーカッション名人だ。

そのペッカーがジャマイカに乗り込み、ザ・ウェイラーズやスライ&ロビーと作り上げた日本初のダブ・アルバム。時はまだ1980年。日本でダブというと、屋敷豪太がいたMUTE BEATの名がいの一番に出てくる。が、彼らの結成は82年。それに先んじて、こんなヤバいアルバムが出ていたのだ。

ただし当時は早すぎて、まだあまりよく理解されていなかった気が。ボブ・マーリーは既に人気が高く、前年に来日もしていたので、レゲエのリズムを取り込むロック・バンドやシンガーはいた。でも本格的なレゲエ作品というのはまだなくて…。なのに意外にもジャズ・フュージョン方面からのプローチがあり、坂本龍一のカクトウギ・セッション『SUMMER NERVES』が登場。更にディープなダブ作品として、本作『PECKER POWER』が登場した。『KYLYN LIVE』にハマった自分は、少し遅れてこのアルバムを聴いたけど、やっぱり最初は斬新すぎて、あまり馴染めなかったなぁ。ダブというと、PILとかクラッシュとか、パンク〜ニュー・ウェイヴ勢の方が近い、と思っていたし。

後で知ったけれど、実際このアルバムは『KYLYN』セッションの続編として、ニューヨーク録音の企画が持ち上がったのが最初だったらしい。ところが中核の渡辺香津美、坂本龍一が忙しくて動けず、このカタチになったとか。ジャマイカのキングストンに同行したのは、吉田美奈子と松岡直也。コ・プロデュースには、YMOのマネージャーだった生田朗が就いている。

レコーディングは、ザ・ウェイラーズとのセッションがTUFF GONGで、アストン&カールトン・バレット兄弟やアイ・スリーのマーシャ・グリフィス、ジュディ・モワットらが参加。<Concrete Jungle>や<Jammin'>といったボブ・マーリーのカヴァーも演っている。CHANNEL ONEで行われたスライ&ロビーとのセッションには、オーガスタス・パブロがピアノで参加。その両方に顔を出しているのが、ザ・スペシャルズのトロンボーン奏者リコ・ロドリゲスで、帰国後、東京で大村憲司 (g) がダビング参加した。

当時はあまりの斬新さに売り上げは厳しかったらしいが、80年代終盤にニューヨークのレーベルがカセット再発。そのユニークな和製ダブ・サウンドが注目されるように。確かその情報を知ってアルバムを聴き直し、「ヘェ〜、ナルホドねぇ」と思った記憶が…。まぁ、この手は詳しくないので比較検討などできないけれど、心と耳は既にオープンになっていたのだな。

後にCDにもなって、“日本最初のダブ・アルバム” との評が定着。クソ暑い今年の夏には、甘ったるいだけのラヴァーズ・ロックより、キレとトロみが相半ばする和製ダブが似合う気がする。

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