gil scott heron_reflectionsgil scott heron_moving

先月発売になったソニー【We Want Jazz】第3期のフュージョン・クロスオーヴァー名盤シリーズ。自分も2枚、解説担当させていただいた(過去作の再掲載ですが)が、今回のラインアップはいずれも定番モノばかりで、個人的には改めて買い直すべきアイテムはなかった。そんな中、例外的にゲットしたのが、ギル・スコット・ヘロン2作。いずれもアナログ時代に聴いていたアルバムだけど、CDは手元になかった。それに、この看板の下での復刻がチョッと意外にも映るな。

ギル・スコット・ヘロンといえば、レア・グルーヴ〜クラブ・ミュージック時代になって再評価されたアーティスト。到底ひとつのジャンルに括れない人で、ソウル、R&B、ジャズ、ファンク、ストリート・ミュージック等などのハイブリッドなミクスチャーを提示してきた。そうした意味では、言葉通り、リアルなクロスオーヴァー・スタイルを持つミュージシャン。そして何より、社会的メッセージを孕んだ詞の魅力、メッセージ発信力が強くて、ポエトリー・リーディングにもトライしてきた。音楽関係者や好事家には、彼を “詩人” と敬うムキも少なくない。そういう方々の興味は、あらかた70年代初頭のフライング・ダッチマン時代の作品に向かう。実際コンピレーションが組まれたり、繰り返し再発されるのも、この時代の作品だ。

対してこの2作は、80年代初頭にアリスタから出たもの。レーベルがレーベルだけに、以前のようなエクスペリメンタルな作りではなく、多少なりとも王道ソウルやファンクに近づいた、より分かりやすい作風になっている。70年後期にコンビを組んで、共同名義で作品をリリースしていたブライアン・ジャクソンとも訣別。代わりに手を組んだのが、スティーヴィー・ワンダー全盛期のシンセサイザー・プログラマーを務めたマルコム・セシルだった。

サングラス姿も印象的な81年作『REFLECTIONS』は、ビル・ウィザース<Grandma's Hands>やマーヴィン・ゲイ<Inner City Blues>のカヴァーを含んだ人気作。いきなりレゲエでスタートするものの、ギル好きにはお馴染みの既定路線。4ビートに乗ってマイルスやコルトレーンらの名を連呼して<Is That Jazz?>と問うてみたり、メロメロなスロウ・ファンク<Morning Thoughts>にポエトリー・リーディングを乗せたり、ダニー・ハサウェイをモチーフにした<Gun>など、従来ファンの期待を背負ったまま、フュージョンやブラック・コンテンポラリーが人気の当時の音楽リスナーにアピール、ファンの幅を広げるスタンスを取っている。これがらギルを聴いてみよう、という方には、一番取っ付きやすいアルバムだろう。

82年作『MOVING TARGET』も、その延長線にあるもの。ミュージシャンも、ほぼ同じラインアップで制作されている。前作のような著名カヴァーはないけれど、その分、時代に応じたソフィスティケイションが進んでいて。それでもヤワい方向には行かないのがギル流儀。レゲエもあれば、ポエトリー・リーディングもある。しかしその一方で、例えばベースがスラップをカマす場面が増えているなど、80's感覚が増した印象がある。

だがギルはこのアルバムを最後にアリスタを離れただけでなく、リリース自体からも遠ざかった。ライヴ活動や単発シングルはあったようだが…。今にして思えば、ラップやヒップホップの萌芽を見つめ、行き先を確かめていたのかも。今回の復刻で久々に聴いたが、こういう硬派なジャズ・ファンクはいつ聴いても美味しいモノだな。


《amazon》
リフレクションズ (特典なし)
ギル・スコット・ヘロン
ソニー・ミュージックレーベルズ
2024-06-26

《Tower Records はココから》

《amazon》
ムーヴィング・ターゲット (特典なし)
ギル・スコット・ヘロン
ソニー・ミュージックレーベルズ
2024-06-26

《Tower Records はココから》