phil upchurch_free&easy

このところ連日の締切続き。とってもありがたいコトではあるけれど、書く対象が毎日コロコロ変わるので、頭の切り替えが難しい。AORを1本書き終えました、さぁ、次はシティポップを1本と、すぐに取り掛かれるワケじゃない。短いレビューなら問題なくても、それなりにヴォリューミーな書きモノなら下調べが必要だし、大まかな起承転結も考える。十八番のAORモノなら深く考えずに書くことができても、モノによっては構想をまとめるだけで時間を要すコトだってある。そんな時、気分の切り替えにちょうどいいのが、この手のフュージョン。資料を整理したり、構想を練ったりする時のBGMに適しているのだ。

そんなタイミングで、韓国BIG PINKが、黒人の名セッション・ギタリスト:フィル・アップチャーチの81年作『FREE & EASY』を紙ジャケ・リイシュー。その国内仕様盤が出回り始めた。まぁ、自分はオリジナル・ヴァイナルを持っているし、初CD化の93年ポリスター盤もあるけれど。

シカゴでのセッション・ワークの傍ら、60年代からソロ・アルバムを出してきた人なので、これが通算10作目。リリース当時は、黒人のジャズ・フュージョン系ギタリストといえば、フィル自身がサポートしたジョージ・ベンソンの人気が圧倒的で、それをエリック・ゲイルとコーネル・デュプリーのスタッフ・コンビ、そして職人デヴィッド・T・ウォーカーが追いかける構図だった。フィル・アップチャーチが好き、というと、結構マニアに思われたはず。CTI / KUDUから出たテニソン・スティーヴンスとの共演盤(75年)、TK系マーリンからのリリース『PHIL UPCHURCH』(78年)は国内盤も出ていたけど、まさに知る人ぞ知る存在だった。90年代はベン・シドランのGo Jazzと契約したものの、注目度はさほど上がらず。それがゼロ年代に入り、70年代前半ブルー・サム期の作品が日本で初CD化されると俄然注目され、デヴィッド・T・ウォーカーに勝るとも劣らぬ存在となった。でも近年はほとんど音沙汰ナシ。

80年代のフィルは、JAMというワシントンD.C.のインディと契約し、本作『FREE & EASY』を手始めに、4作品をそこに残している。いずれもポリスターがCD化しているが、それはとっくに入手困難。ブルー・サム作品のCD化でフィルに注目した方には、本CDは待望の復刻かもしれない。

参加メンバーは鍵盤にラッセル・フェランテ、ドラムにハーヴィー・メイスン、サックスにエディ・ハリスら。ベースは息子のフィルJr.が弾いている。収録曲にはフィルやR.フェランテの持ち寄りの他、スタイリスティックス<People Make The World Go Round>、マイケル・ジャクソン<She's Out Of My Life>、ジョン・コルトレーン<Moment's Notice>といったカヴァー曲も。ブルージーな<Groovin' Slow>では、ロイ・エアーズ人脈に連なるシルヴィア・コックスが官能的ヴォーカルを聴かせる。

インナーにはクインシー・ジョーンズやカーティス・メイフィールド、ジミー・スミス、チャカ・カーン、アール・クルーらのコメントが掲載。デヴィッド・T やエリック・ゲイルのようなギター・プレイのクセはなく、甘美かつスムーズさが特徴か。『FREE & EASY』とは、よくぞ付けたモンです。

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