レココレ 10summer of 1982azymuth波の数dvd

1週間の隠遁生活から戻ってみれば、デスクの上は配達物の山。その中にレコードコレクターズ誌11月号があった。この号の特集【ブルーノート・ベスト100】は、68年までの発売作からの執筆陣セレクトというコトだったので、自分は相応しくないと依頼を辞退したのだけれど、読者投稿欄【レターズ】に前号『AORベスト100』の大物評論家からのリアクションが掲載れていると聞いていたので、ちょっとばかし気になっていた。

早速読んでみたら、投稿の主は大先輩の小倉エージ氏。2〜3度お目に掛かって、ご挨拶したことがある。その投稿の中で、ドゥービー・ブラザーズ<What A Fool Believes>の元ネタがキャプテン&テニール<愛ある限り(Love Will Keep Us Together)>であることを、マイケル自身がインタビューで言っていたことと証言。自分のちょっと曖昧な記憶を裏付けしていただいた。内容的には確信があったものの、自分がそれを果たして何処で見聞きしたのか、それを辿れずにいたのだ。

一方で、ご自身が制作スタッフとして関われていたNHK-FM『クロスオーバー・イレブン』に触れ、AORとフュージョン「両ジャンルの重要な情報源として貢献してきたと自負してきました」と書いていらっしゃる。そして、自分や他の選者の記事に、同番組への言及がないことに憤懣やるかたなき様子が窺えて…。

でも、少なくとも自分に関しちゃ、忘れていたワケではないんですよね。下書きの中には、番組名こそ書かなかったものの深夜ラジオ番組の影響に言及をした下りがあった。ただ自分が書いた『AORの現在地を考える』のテーマは、ベスト100のランキング結果をベースに考察するお題。なのでどんな経緯で流布・流行したかという歴史的事実より、アナライズ重視の斬り口なのだ。自分自身はあの深夜帯のFM音楽番組にはハマらなかったし、80年代初めはもっぱら貸レコード屋で情報蒐集していたクチ。それでもエージさんや、故・大伴良則さんをリスペクトする気持ちには微塵の曇りもないのだけれど。

しかしながら、ことAORに関しては、80年代初頭のミニFMブームの中に、こうしたFM音楽番組へのアンチテーゼの傾向があったことは指摘しておきたい。湘南のミニFM局を舞台にしたホイチョイ・ムービー『波の数だけ抱きしめて』で、中山美穂演じる真理が、バイト先の局を説明する下りで、こんな旨を語っている。

「雨の日には雨の曲を、晴れた日には晴れの曲を。そんな風に今の気分で曲をかけるラジオ局なんです」と。

つまりは、何ヶ月も前から選曲を決めて、FM雑誌の番組欄にプレイリストを掲載する、そうした従来パターンを否定する意味があったのだ。もちろんFM雑誌へのリスト掲載は、エアチェック派のニーズから生まれたモノ。だが田中康夫著『なんとなく、クリスタル』や『たまらなく、アーベイン(=僕の東京ドライブ)』をひとつのキッカケに、もっと気楽にその時々の気分に合った音楽を聴きたい、そういうライト・ユーザーが急増した。AORはまさにそのシンボルだったワケで、ある意味ストイックに深夜の音楽番組を聴いている硬派リスナーの指向とは相容れない。でもそんなコトを細々説明している余裕はアソコにはなかった、ということなのだ。

本来【レターズ】への投稿への返答なら、そこへ送るのが本筋。だけれど、コレは反論ではなく事情説明みたいなモノだし、1週間ぶりのシャバ復帰でちょっと忙しく、そもそも大先輩に楯突くつもりもない。まあ、当時を知るAOR好きなら分かるはずのモノでもあるので、ココでの覚書きに留めておく。