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まもなく発売される和久井光司さん責任編集のアーティスト・ガイド本『フリートウッド・マック完全本』(河出書房新社・刊)を献本いただいた。ご存じのように、英国ブルース・ロック・バンドとしてスタートし、紆余曲折を経て世界的ビッグ・ネームへ躍進。その後はその重い看板を背負いつつ、時に不複雑な人間関係を露呈させながら、断続的に活動を続けて彼らのこと。バンドの詳細を知るだけでなく、その誕生や音楽的・編成的変遷の背景など、多角的な視点が面白く、また自分の音楽知識の拡充にも繋がる。

バンド史的に言えば、バッキンガム=ニックス加入後の足取りがクローズアップされて当然だけれど、完全版と謳うにふさわしく、ブルース時代も混迷期もそれぞれにクローズアップ。時代ごとの面白さを浮き彫りにしている。結成前史の恩人ジョン・メイオールの急死を受けてのコトではあるけれど、これほど充実したメイオールのディスコグラフィ・ガイドは他じゃ見られないし、ブルースから離れて人気が低迷した70年代前半期へのあたたかな視点は、ボブ・ウェルチ大好きの自分としてはこの上なく嬉しかった。『FUTURE GAME』オシの和久井さんに対し、自分は『HEROES ARE HARD TO FINED(クリスタルの謎)』が好きと、多少の指向の違いはあるのだけれど…。

バッキンガム=ニックス加入後の『FLEETWOOD MAC(ファンタスティック・マック)』以降の充実ぶりは今更指摘するまでもないけれど、87年『TANGO IN THE NIGHT』までの音楽的リーダーを務めたリンジー・バッキンガムの扱いは、やや軽い印象。バンド内のゴシップ的な人間模様をほとんどスルーしたのは正解と思う一方で、結局『TANGO IN THE NIGHT』以降、リンジー、スティーヴィー・ニックス、クリティン・マクヴィーの3人が揃ったのは、90年代末のリユニオン期しかなかったというのが悲しくもある。この頃から全米でもトップ・クラスのカリスマ女性ロック・シンガーとなったスティーヴィーの意向を無視しては、フリートウッド・マックの活動は立ち行かなくなっているワケだが、そのあたりの日米格差については、もう少し説明があった方が親切だった気がした。

…にしても、ピーター・グリーンはもちろん、ジェレミー・スペンサーやダニー・カーワンのソロ作品に言及するポストや音楽記事を見ることがあっても、オリジナル・ベーシストのボブ・ブラニング、ウェルチ期に去来したボブ・ウェストンやデイヴ・ウォーカー、3巨頭の不在を埋めたビリー・ヴァーネットやリック・ヴィトー、ベッカ・ブラムレットあたりまで詳細に載っているとは。最新ラインナップのニール・フィンやマイク・キャンベルとなると、正直メンバー扱いに違和感があるが、まぁ、これがマック正史ではあるだろう。個人的には、ミック・フリードウッドやジョン・マクヴィーのソロ作まで(ほぼ)コンプリートしていた自分を褒めてやりたい…

AOR視点でマックを見れば、当然どストライクなAORアクトではないものの、AOR黎明のその前に、ソフトなロック・ミュージックを世界中に伝播させた功績は大きく、彼らの音楽的進化とその拡散がAOR誕生の下地になったのは間違いない。最近、何度目かの再評価が進んでいるマック、日本ではその中心にこの完全版があるべき、とそう思う。

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フリートウッド・マック完全版
河出書房新社
2024-10-21

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