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しばらく断絶状態にあったポール・サイモンと再会し、一緒に食事したことが音楽系ニュース・サイトを賑わせたばかりのアート・ガーファンクル。アーティが涙を流した…、なんて話も伝わってくるが、彼が本当に話題にして欲しいのは、多分コチラだろう。愛息アート・ガーファンクル Jr.との父子共演アルバム『FATHER AND SON』が、今月初旬、輸入盤CD / Analog と配信でリリースされたのだ。

アート・ガーファンクル Jr.(本名ジェイムス・ガーファンクル)は、アーティの第一子として90年にマンハッタンで誕生。現在33歳になる。幼い頃からよく父親のツアーに同行していたそうで、やがて祖父母のドイツ・ルーツを遡ってドイツ語を勉強。10代でベルリンに移住し、18〜19年には父親の大規模ツアーに参加している。21年にドイツでソロ・デビューし、アルバム2枚を発表。それぞれトップ10、トップ15にランクインしたそうだ。それを見た父アーティはジュニアを広く全米に紹介しようと、英語で歌うこのアルバムを企画したらしい。そう、息子のアルバムは独語の作品だったのだ。

父子共演の内容は、30〜40年代のジャズ・スタンダードから近年のポップ・ヒットまでを網羅した、珠玉のカヴァー・ソング集。しかもそれをオーケストラ・サウンドで、ゆったり大らかに、しかも繊細さとゴージャスさを緻密にコントロールした音使いで聴かせてくれる。選んでいるのは、<Blue Moon><Once In A While><Nature Boy><You Belong To Me>といったジャズ・スタンダードから、CSN&Yも歌っていたビートルズ<Blackbird>、<American Pie>に並ぶドン・マクリーンの代表曲でゴッホに捧げた<Vincent>、そしてもはやポップ・スタンダード的存在感のシンディ・ローパー<Time After Time>に、ちょっと意外なユーリズミックス<Here Comes The Rain Again>と幅広い。

更に意表を突かれるのが、Ph.Dが全英トップ10に送り込んだポップ・バラード<I Won't Let You Down>の存在だ。Ph.Dは後にソロで活躍するジム・ダイアモンド(15年没)をフロントに据えたシンセ・ポップのユニット。だがその仕掛け人たるkyd奏者は、ジャック・ブルースやジェフ・ベックを支えた職人トニー・ハイマス。そしてその盟友たる敏腕ドラマー:サイモン・フィリップスも、Ph.D結成に名を連ねた。こうした通好みのセレクトは、間違いなくジュニアのセンス。
「私は90年代初頭生まれですが、80年代のクラシックな曲に多大な影響を受けました。これらは間違いなく私の提案です」

最近は竹内まりや&山下達郎のカヴァーなど各所で耳にする機会が多い<Let It Be Me>は、フランスのヒット・メイカー:ジルベール・ベコーが55年にヒットさせたもの。英語版が世界的に伝播するのは、60年に発表されたエヴァリー・ブラザースのヴァージョン(全米7位)がキッカケだ。アーティは、ツアーに同行させた若きジュニアとこの曲を一緒にパフォーマンスしてきたそうで、もう結構長いことレパートリーにしている。父アーティにとって、この共演作のハイライトと言える思い出深い一曲。
「ああ、息子と一緒にこれを歌うのが大好きなんだ。 エヴァリー・ブラザーズからチョッと拝借してね」

古くからのアーティ・ファンのハイライトは、きっと<Old Friends>だろう。言うまでもなく、サイモン&ガーファンクル『BOOKENDS』(68年)の収録曲。
「これは私のお気に入りのサイモン&ガーファンクルの曲のひとつ。何十年にも渡ってね」(ジュニア)
きっとアーティがポール・サイモンと再会した時、この曲のことも話題に上ったのではないかな? そしてアルバム最後を締め括るタイトル曲<Father And Son>は、今はユセフ・イスラムを名乗るキャット・スティーヴンス、70年の楽曲からのチョイスになる。

セッションを仕切っているのは、ペット・ショップ・ボーイズと多くの仕事をしてきているドイツ人プロデューサー:フェリックス・ゴーダー。そしてこの共演作のキモとなる弦アレンジは、イタリアの売れっ子ストリングス・アレンジャー:ダビデ・ロッシ。この人はコールドプレイを筆頭に、アリシア・キーズ、U2、デュラン・デュラン、ジョン・メイヤー、シェリル・クロウからエルトン・ジョン、ニール・ダイアモンドといった大御所、若いところでエド・シーランやテイラー・スウィフト、アリアナ・グランデなどを手掛けており、まさに現代のストリングス・アレンジャーの第一人者である。

それでも一番スゴイと思うのは、この豪華なサウンド・メイクがすべて、この父子共演の引き立て役に回っていること。父アーティの “天使の歌声” は定評のあるところだけど、さすがに80歳を越えれば相応の衰えは隠せず、所々に滑舌の悪さも…。でもそれを補って余りあるのが、ジュニアの溌剌とした歌声だ。父親ほどの美声ではないものの、そのスムーズなハイトーンで、メロディ・パートを分け合って歌い繋いだり、もちろん声を重ねてハーモニーを紡いだり。やっぱりこの親子しか作り得ないサムシングがある。

ジャケのフォトでは、あんまし似ているようには見えない親子だけれど(でも鼻筋とかはソックリ)、アーティの79年作『FATE FOR BREAKFAST』と同じキッチン(自宅?)で撮影したようで、ロートルなら思わずニヤリ。ブックレットを開くと、中にはもっとワイド・アングルのショットがあって、アーティ側に年代モノ、ジュニア側に最新型の電子レンジが並んでいる。そしてその上の食器棚には、78年盤でアーティの目の前に鎮座していた黄色のアヒル型ポットも。そういうディテールの心使いに、思わずウルッ としてしまうのがシニア世代なのだな。







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