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ビクターの好評シリーズ【マスターピース・コレクション〜フィメール・シティポップ名作選】。今回は再評価が進んでいる岩崎宏美シティポップス系作品の中から、80年作『WISH』、83年作『私・的・空・間』、86年作『わがまま』、88年作『me too』という好作4枚をチョイス。今週25日に復刻される。いずれもボーナス・トラック付きで高音質仕様、最新デジタル・リマスター、シングル・ジャケット縮小封入、そして最新ライナー。『WISH』『わがまま』は筆者解説であります。また特に人気の『WISH』『me too』は、来年アナログ復刻も。

筆者ライナーの2枚を紹介すると、まず『WISH』は、初の海外レコーディング作品で、岩崎宏美に数多くの楽曲を提供した恩師:筒美京平の書き下ろし作品第2集(ボーナス曲を除く)。“京平ディスコの頂点” とも言われる『パンドラの小箱』(78年)に続くアルバムで、5人の作詞家と全12曲を提供している。参加ミュージシャンは、スティーリー・ダンのセッション常連ヴィクター・フェルドマン (per)、ジェイムス・テイラーのサポートでも知られる故カルロス・ヴェガ (ds) とジミー・ジョンソン (b)、まだ駆け出しだった頃のヴィニー・カリウタ (ds)、ソロ作も多いトム・ロテラ (g)、パズル〜カリズマのラリー・クライマス (sax)、シンセ職人マイケル・ボディカー、そして映画やTVドラマでも大活躍した全米屈指のハーモニカ奏者:故トミー・モーガンなど、当時の気鋭の若手から実力派まで幅広く。筒美自身もピアノでセッションに加わり、リラックスしたウエストコーストのバンド・アンサンブルを構築している。アレンジは筒美、後藤次利が各5曲、戸塚修が2曲を分け合った。そしてそこにヒロリンの伸びやかな歌声が乗る。当時の彼女は21〜22歳。

シティポップ的人気曲は、滑らかなメロウ・ミディアム<Street Dancer>、後藤アレンジでアーベインに迫る<Kiss Again>、やはり後藤の手でAORを滲ませたスロウ・ナンバー<Rose>あたり。また<女優>はボーナス収録のシングル・ヴァージョンとの対比が面白く、後藤編曲のアルバム版では当時一世を風靡したジェイ・グレイドン流儀のギターが聴ける。タイトル曲<Wishes>は筒美のピアノとヒロリンのデュオで話題になった。後藤アレンジが際立つのは、当時ミュージシャンからアレンジャーへ活動域を広げつつあった彼に、筒美が可能性を感じた故だろう。ボーナス曲では、筒美作曲、林哲司編曲という珍しい組み合わせのシングルB面曲<白夜>も美味。

アーティストにシングル曲を提供する時は、“絶対に売れるモノを書く” という信念と意地を見せる京平先生。その分、アルバム曲やカップリング曲はもっと自然体で書いたと思われ、時に彼の本音が見え隠れする。そうした意味でこの『WISH』は、互いのキャリアに重要な一枚だったと思う。

対して『わがまま』は、ヒロリンがデビュー以来在籍してきた芸能事務所から独立し、本格的なアダルト・ポップスを指向するようになってからの3作目。最大の注目は彼女と山川恵津子の本格的コラボレーションにあって、オリジナル全9曲中6曲が山川の作編曲。先行シングルとして出た大野雄二作<小さな旅>以外の2曲も山川アレンジだ。

彼女の編曲手法は、エレガントかつインテリジェントなコード進行が特徴で、キーボードやストリングス、ホーン、あるいはヴォーカル・ハーモニーによるスウィートニングに定評がある。しかも難しいことをサラリとオシャレに聴かせるのが得意。『わがまま』よりわずかに先行した小泉今日子<100%男女交際>が、同年日本レコード大賞編曲賞を受けたのだから、それだけノッていた時期だ。演奏陣も山下達郎バンドのリズム隊:青山純&伊藤広規、スペクトラムやAB’Sでリズム・コンビを組んだ渡辺直樹&岡本郭男、それにベテラン岡沢章 (b)、鳥山雄二・土方隆行 (g)、松武秀樹 (Syn-prog) など、トップ・ミュージシャンがズラリ。最も山川らしさが滲むのは、何処かパット・メセニー・グループ風のスターター<真昼のSILVER MOON>。現在のシティポップ・ブームでは、サヴァンナ・バンド歌謡視点で注目される<カサノバL>が海外で人気を得る。そして比山清(現・貴咏史)・木戸泰弘・伊集加代子+山川に拠る<好きにならずにいられない>の至極のアカペラ・ヴァージョンが、アルバムのエピローグを飾った。ヒロリンのキャリアに照らせば、いわば彼女のスタンダードに位置づけても良い一枚ではないかな?





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