415415_boys night out

去年の暮れに、こんな未発表アルバムが日の目を見ていたのね。全然気づかなかったわ。この415は、ミスター・ビッグのシンガーであるエリック・マーティンがキャリア初期に在籍した6人組。彼らは拠点とするサンフランシスコの先輩バンド;ジャーニーのバックアップを受け、エリック・マーティン・バンドと改名して83年にメジャー・デビューしている、その改名前にレコーディングしたのが、この2枚のアルバム。415というのはシスコの市外局番。このパターンのバンド名は、古くはナッシュヴィルのスタジオ・ミュージシャンが集ったエリア・コード615、AORシーンでは2019年に発掘されたビル・メイヤーズらのプロジェクト:213(81年録音)あたりを真っ先に思い出す。

エリック・マーティン・バンドの前身、というか、ドラマーが落ち着かない以外は、まるきりエリック・マーティン・バンドそのままのラインアップ。メンバーにはY&Tに加入するジョン・ナイマン (g)、グレッグ・ローリーがソロ活動で重用するマーク・ロス (g) らが在籍した。1作目『AREA CODE 415』は80年に録音されたデモ音源で、ジャーニーを手掛けたケヴィン・エルソンがプロデュース。1曲スタジオを覗きに来たスティーヴ・ペリーが、バック・ヴォーカルで参加している。だがこの音源をメジャー・レーベル各社に送っても、契約は得られなかった。

2nd『BOYS NIGHT OUT』は、それに続いて81年にレコーディングしたデモ音源。プロデュースを手掛けたのは、おそらくジャーニー脱退で時間的余裕ができたと思しきグレッグ・ローリーである。その成果が実ったか、415はナイト・レンジャーやリック・スプリングフィールドの前座としてツアーを実施。ジャーニーのマネージャーの紹介でエレクトラと契約することになった。その際、同名のパンク・ロック・レーベルからバンド名変更を強く打診されたこと、バンドのシンガー/フロントマンでレパートリーのほとんどを書き、女性ファンの人気も高かったエリックをフィーチャーした方が良い、それらが重なって、改名してデビューすることになった。しかしエリック・マーティン・バンドとしてのデビュー作『SUCKER FOA A PRETTY FACE』(83年) は、L.A.メタルの存在が大きくなってきたシーン潮流と噛み合わず、Z.Z.トップのツアーを行なっただけで解散へ。エリックがダニー・コーチマーのプロデュースでソロ・デビューするのは、85年のことだ。

エリック・マーティン・バンドの前身というコトで、音の傾向も、ほぼエリック・マーティン・バンド。ジャーニーみたいな産業/アリーナ・ロック系ではなく、パワー・ポップとかハード・ポップと形容するのが近い。曲はどれも2〜3分台でコンパクトにまとめられ、スケールよりも疾走感で勝負、みたいな…。作品的にはキャッチーにまとまった楽曲が多く、お蔵入りが不思議なほどだ。1枚目の方がよりポップ、2枚目の方が少しハードかな? 個人的にはチープ・トリックとラヴァーボーイが合体したような印象だが、これからデビューさせるにはタイミングが遅い、シーンの最新事情と合致していない、というコトだったのだろう。なおメジャー・デビュー盤をエレクトラで制作する前のオリジナル・レコーディングも、『SUCKER FOA A PRETTY FACE ~ Original Sessions ~』として併せてリリース。自分は完成盤がありゃあ充分、とスルーしたけど、エリック・マーティン・ファンはそちらも要チェックか。

エリックはソロ作を出した後、TOTO3代目シンガーとなるべくオーディションを受け、加入寸前まで進んでいる。もしそれが正式に決まっていれば、彼の未来もTOTOも歩みも今とは大きく違っていただろう。当時は相当ツラい時期を送ったらしいが、まぁ結局ミスター・ビッグという大きな足跡を残したから、エリックにとっては良かったんだろうな。

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