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仕事をしながら、見るとはなしにグラミー授賞式の中継を。もうヒット・チャートを追わなくなって久しいので、いわゆる主要部門のノミネートを見てもほとんど馴染みがない。逆にローリング・ストーンズ『HACKNEY DIAMONDS』がベスト・ロック・アルバムを獲得したり、ピーター・ガブリエル『i/o』が最優秀録音に輝いていると、ホッとしてみたり…。ノラ・ジョーンズ、ミシェル・ンデゲオチェロ、タジ・マハール、シー・シー・ワイナンズあたりがシッカリとウィナーになったのも、グラミーらしいところだ。ただビートルズ<Now And Then>のベスト・ロック・パフォーマンス獲得は、個人的にはどうにも解せないなぁ…
受賞詳細はコチラから。

いわゆる主要4部門は、以下の通り。
最優秀レコード:ケンドリック・ラマー<Not Like Us >
最優秀アルバム:ビヨンセ『COWBOY CARTER』
最優秀楽曲:ケンドリック・ラマー<Not Like Us >
最優秀新人:チャペル・ローン

つまり主要部門のウィナーは、黒人とクィアという…。これは、21年度のノミネート発表時から白人優遇や選考基準が曖昧という理由でグラミーをボイコットしていたザ・ウィークエンドが、パフォーマーとしてサプライズ出演したコトと決して無関係ではないだろう。しかもその直前には、グラミー主催者であるレコーディング・アカデミー会長:ハーヴィー・メイソンJr.(かの名ドラマーのご子息)が登場し、各種批判を受け止め改革に取り組んでいる旨を説明。会長直々に奇跡的に実現したサプライズ・パフォーマンスを紹介したのだ。

グラミー歴代最多受賞者のビヨンセも、これまで何度も主要部門にノミネートされながら無冠に終わっていた。が、今回、遂に『COWBOY CARTER』で最優秀アルバム賞を獲得。更に最優秀カントリー・アルバム賞、マイリー・サイラスとのデュエット<II Most Wanted>で最優秀カントリー・デュオ/グループ・パフォーマンスも受賞した。このアルバムは黒人シンガーの彼女が単にカントリーに挑戦した、というだけでなく、フォークやブルースなど様々なエレメントをミックス。ビートルズのカヴァーにもトライして、ポール・マッカートニーが60年代の公民権運動にインスパイアされて書いたとされる<Blackbird>を選んでいる。国旗を掲げたアートワークが象徴するように、かなり社会派な作品なのだ。

そもそも今回のグラミー授賞式は、L.A.の山火事の影響で延期が検討されたほど特殊な回。式典はかなり強いチャリティーの色彩を帯びていた。幕開けパフォーマンスは、この山火事で自宅とスタジオを失ったインディ・ロック・バンド:ドーズ(Dawes)で、バックの演奏はシェリル・クロウ、ブリタニー・ハワード、ジョン・レジェンド、セイント・ヴィンセントらのスペシャル・バンド。そして歌うのはランディ・ニューマンの<I Love L.A.>。開演中も要所要所でドネーションが呼び掛けられ、パサディナ地区の消防士たちが最優秀アルバム賞のプレゼンターを務めた。

ちなみにビヨンセ『COWBOY CARTER』は、昨年のカントリー・シーン最大のヒットとされ、アフリカ系女性で初のカントリー・アルバム・チャート首位という快挙を成し遂げた。そんな作品が、カントリー界最大となるカントリー・ミュージック協会賞(CMAアワード)でまさかのノミネートなし。カントリーのフィールドが如何に保守的で権威主義的かを暴露するカタチになった。片や多様化をアピールしたグラミー、片や保守派の牙城のようなCMAアワード。まるでアメリカ分断の構図を見せつけるような有り様である。

個人的にオヨヨ!と思ったのは、クインシー・ジョーンズのトリビュートでの、ハービー・ハンコックとスティーヴィー・ワンダー共演。最優秀ソングのプレゼンターとして登場したダイアナ・ロス。トロフィを受け取ったケンドリック・ラマーが、少し照れたように「ダイアナ・ロスから貰っちゃったよ」とはしゃいでいたのも印象的だった。

ここ日本でも、グラミーを参考に、マスメディアから切り離した、よりピュアーなミュージック・アワード創設を目指す動きがあるそうだ。でもこんな風に音楽的、かつ文化的・社会的にオープンにならないと、既存の芸能界チックな大賞モノと差別化が図れないと思う。フジTVの問題じゃないけど、悪い膿はどんどん出しちゃって。