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今週12日に一挙40タイトルが発売されるソニー・ミュージックの再発企画【発掘!洋楽隠れ名盤 Hidden Gems in 60/70s】。自分もその中の5タイトル分の解説を執筆しました。このシリーズは90年代〜00年代にかけて、紙ジャケットや限定盤などでリイシューされた作品群から、現在は入手困難で、なおかつ再発リクエストが多いアイテムを廉価復刻していくもの。でも中には日本初CD化や、相当久しぶりの復刻盤もあって…(詳細はコチラから)。そこからまずは、自分のライナー担当分から順次ココでご紹介したい。初っ端はコレ、ビリー・ジョエルの71年ソロ・デビュー盤『COLD SPRING HARBOR(ピアノの詩人)』。

コアなビリー・ファンなら当然とっくにゲットしているだろうが、初期作品でも一番購入を後回しにされていそうな一枚。でも改めて聴き込むと、やはりビリーがソロ・キャリアを踏み出した最初のアルバムということで、いろいろ興味深い点がある。

これ以前にハッスルズやアッティラでアルバムを出していたビリーは、それがまったくモノにならなかったため、当初はソングライターとしての可能性を探るべく、オリジナル曲のデモを方々に配布。まずは自分の曲を他のシンガーに歌ってもらおうと考えたらしい。これに反応したのがウッドストック・フェスティヴァルの主催者の一人、マイケル・ラング。だがラングは自身のレーベル Just Sunshineを立ち上げたばかりで、ビリーにまで手が回らず、彼を友人アーティ・リップに紹介。リップの新設レーベル Family Producetionで制作されたのが、このデビュー盤になる。しかし彼の仕事は杜撰で、ピッチ違いのままレコードがプレスされたり、宣伝や流通網も貧弱なら、プロモーション・ツアーのバンドもお粗末といった有り様で…。嫌気が差したビリーはツアーを途中でキャンセルし、逃げるようにL.A.へ引っ越した。そしてビリー・マーティンの名で小さなクラブに出演、日銭を稼いで暮らしを立てるようになった。

そんなビリーを救い出したのが、かのクライヴ・デイヴィス。ビリーのプロモ・ライヴを見ていた彼は、その窮状を知ってアーティ・リップとの契約を買い上げ、ビリーを獲得。そして作られるのが、出世作となる73年の『PIANO MAN』である。でもその前に、この『COLD SPRING HARBOR』があったのだ。

ここで重要なのは、ビリーがピアノ系シンガー・ソングライターとしての進路を見定め、弾き語り+4リズムによるシンプルなバンド・スタイルを築いたこと。それでも、後年ライヴ・アルバム『SONGS IN THE ATTIC』で再評価される弾き語りの<She's Got A Way>や<Why Judy Why>は、MOR寄りのていねいな歌いっぷりが目立つし、<Everybody Loves You Now>ではロックン・ローラー/エンターテイナーとしての姿が垣間見える。<You Can Make Me Free>はモロにポール・マッカートニー風。当然エルトン・ジョンを意識したような<Tomorrow Is Today>もある。つまり、シンガー・ソングライターとしての足場を築いたと言っても、具体的にどんなタイプを目指すかは、まだ模索中といった風情なのだ。

でも『THE STRANGER』『52nd STREET』の爆発的ヒットを経て、エンターテイナーへと駒を進めていくビリーに興味を失ってしまった自分のような初期ファンには、そういう姿がとても愛おしく見えてしまうのだな。

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コールド・スプリング・ハーバー〜ピアノの詩人
ビリー・ジョエル
ソニー・ミュージックレーベルズ
2025-03-12

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