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昨日に続き、ソニー・ミュージック再発企画【発掘!洋楽隠れ名盤 Hidden Gems in 60/70s】から、自分がライナーノーツを担当したアイテムをご紹介。今回はボズ・スキャッグスの初期作品、72年の『MY TIME』と74年の『SLOW DANCER』。かの『SILK DEGREES』に向かう、いわゆるプレAOR期のアルバム。AORの時代は、何も突然、76年に降って湧いてきたワケではないのだ。

『MY TIME』はUSコロムビア(現ソニーミュージック)入りしての3作目で、ヨーロッパ放浪期の作品も入れると通算5作目。マッスル・ショールズ録音6曲と、過去2作を一緒に作った自前のバンドとのサンフランシスコ録音4曲から成り、そのうちアル・グリーンと、アラン・トゥーサン絡みが2曲と、計3曲のカヴァーを含んでいる。このカヴァーのセレクトには、シンガー・ソングライターを目指しながらも、本物のソウル・フィーリングを自分のモノとしたいボズのR&B愛が窺える。そしてこの中から、軽快な<Dinah Flo>が全米86位とヒット。更にボズは、豊かな情感を湛えた<Might Have To Cry>、ナイーヴなファルセットが印象的な<He's A Fool For You>など、マッスル・ショールズ録音曲に手応えを感じたのだろう。より深いブルー・アイド・ソウルの探求に進んで行くことになる。かつてガップリ四つに組んだデュエイン・オールマンは鬼籍に入ってしまったが、代わりにジミー・ジョンソン、エディ・ヒントン、ピート・カーと3人のマッスル・ショールズ系敏腕ギタリストが一緒だったことも、きっとボズには大きかったはずだ。

続く『SLOW DANCER』は、こうした路線を押し進めた先にある。発売当初は、ボズの海パン姿のジャケだったことでも知られているか。正装して女性(当時の奥様)と踊るアートワークは、『SILK DEGREES』がヒットしたのを機に新装再発されたものだ。でもそこに寄せたコメントで、ボズはちょっと大事なコトに触れている。
「ジョニーが歌い方を教えてくれた。ロマンスに耳を傾けたり、昔のアイドルを懐かしんだり、ちょっとしたコツさえ掴めば、あとは歩くように右へ左へ揺れればいい、ってね」

ジョニーとは、本作を手掛けたモータウン出身のプロデューサー;ジョニー・ブリストル。『SLOW DANCER』と同じ74年にMGMからソロ・デビューし、<Hang On In There Baby>がR&Bチャート2位/全米8位の大ヒット、追って同名の初アルバムを出した。でもそれはボズの後だから、彼の先見の明に驚かされる。もっともコレは偶然の流れだったらしいが、そのあたりは拙解説をトクとご覧あれ。参加ミュージシャンの多くは、当時のL.A.ファースト・コールで、エド・グリーン/ジェイムス・ギャドソン (ds)、ジェイムス・ジェマーソン(b)、ジョー・サンプル/クラレンス・マクドナルド/マイケル・メルヴォワン/ジェリー・ピータース (kyd)、デヴィッド・T・ウォーカー/デニス・コフィ/ワウワウ・ワトソン/ジェイ・グレイドン (g)、アーニー・ワッツ (sax) など、ブリストルに近いモータウン・セッション常連たち。H.B.バーナムのアレンジ、とりわけ弦の差配は、後のデヴィッド・ペイチやマイケル・オマーティアンとのワークスでも参考にしたらしい。

ブリストルの貢献は、ボズをギターから解放してヴォーカルに専念させたこと。そしてボズ自身の言葉のように、ソウル・ヴォーカルのキモの部分を伝授し、シンガー:ボズの資質を開花させたこと。それを踏まえてボズは、ソウルやジャズ系の黒人ミュージシャンを中心にした『SLOW DANCER』のアンサンブルを、若手白人ミュージシャン、つまり後のTOTO に置き換えて『SILK DEGREES』を創った。だからこのアルバムでの経験値がなければ、後のAORは別モノになっていた可能性もある。

皆さん、そこのところを是非とも意識して聴いてくださいな。

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