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今週発売されたソニー・ミュージック再発企画【発掘!洋楽隠れ名盤 Hidden Gems in 60/70s】から、自分がライナーノーツを担当したアイテムのご紹介4日目は、作詞家として名を馳せたアリー・ウィリスの、シンガー・ソングライターとしての唯一作『CHILDSTAR』。以前、紙ジャケでCD化されたコトがあったけれど、当時は買い逃してしまった、という人が多そうなアイテムだ。

アリー・ウィリスは、<September>(全米8位)や<Boogie Wonderland>(全米6位)を筆頭に、アース・ウインド&ファイアーに多くの詞を提供して、一躍名前を知られるようになった。とりわけ『I AM(黙示録)』では7曲の詞を書いている。アース周辺ではエモーションズやデニース・ウィリアムス、レヴェル42など、更にパティ・ラベル、ティナ・ターナー、ディオンヌ・ワーウィック、アレサ・フランクリン、ダイアナ・ロス、リタ・クーリッジ、ハービー・ハンコック、ナラダ・マイケル・ウォルデン、メリサ・マンチェスター、マンハッタン・トランスファー、アル・ジャロウ、パブロ・クルーズ、ポインター・シスターズ、ブライアン・アダムスにシンディ・ローパーなど、錚々たる大物たちにヒットを提供してきた。

そんなアリーは大学卒業後、ニューヨークで米コロムビア・レコード宣伝部秘書を務めていた。そこで言葉選びのセンスを買われ、キャッチコピーや紹介用ライナーノーツを担当。ボブ・ディランやジャニス・ジョプリン、ローラ・ニーロ、バーブラ・ストライサンド、スライ&ファミリー・ストーン、そしてアース・ウインド&ファイアーらの広報活動に関わったそうだ。そして趣味で書いていたオリジナル曲を上司に聴かせたところ、「お前レコード作ってみたら?」みたいな展開に。そして74年にこのアルバムが生まれた。

プロデュースは50年代から活躍する巨匠ジェリー・ラガヴォイ。レコーディング・セッションに参加したのは、スティーヴ・ガッド(ds) 、トニー・レヴィン/ボブ・バビット(b)、デヴィッド・スピノザ(g)、レオン・ペンダーヴィス/ウォーレン・バーンハート(kyd)、ラニ・グローヴス (back-vo) ら、ニューヨークの一流どころ。収録曲は当然アリーの楽曲だが、ココでは作詞のみならず、詞曲共にアリー自身(共作2曲含む)。自らのお気に入り<Ain't No Man Worth It>は、ベット・ミドラーのコーラス隊を務めた女性トリオ:シャロン・レッド=ウラ・へドゥイグ=シャーロット・クロスレーが取り上げている。タイトル曲<Childstar>はベットがレコーディングしたらしいが、こちらは未発表。でもアルバム全体にラガヴォイら3人のアレンジャーの手腕が光っていて、楽曲ごとにジャジーだったり、ソウルフルだったり、しっとりバラードだったりと、実にバラエティに富んでいる。アリーの歌はいわゆるヘタウマ。でもまるで演技のように表情豊かにキャラクターを変えたりして、ヘタな歌手より、よほど見事に歌心を掴んでいる。軽快シャッフル<What Kind Of Shoes Does September Wear>は、ニューヨーク界隈で少しだけローカル・ヒットしたそうだ。

いずれにぜよ、大して芽は出なかったワケだけど、ここで見せたユニークなキャラが、後々アリーの人脈形成の役だったのは確かなようで。2019年のクリスマスに心筋梗塞で急逝してしまったけれど(享年72)、“ソングライターの殿堂”に入る名誉に浴しながら、アート・ディレクターとして絵画や陶芸、彫刻などの制作にも力を注ぎ、キッチュなヴィンテージ・グッズの世界的蒐集家、またブロードウェイ・ミュージカル『The Color Purple』の共同脚本家でもあった。そんな風に驚くほど多彩な顔を持った人らしい作品。イイ感じで肩の力が抜けてます。

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チャイルドスター
アリー・ウィリス
ソニー・ミュージックレーベルズ
2025-03-12

《Tower Records はココから》