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フィラデルフィア・ソウルのレジェンド・グループ:スタイリスティックスの、何と17年ぶりのニュー・アルバム。なのにビックリの2枚組で、ゲストにロニー・ウッド(ローリング・ストーンズ)、ジーン・シモンズ(キッス)、ビリー・ギボンズ(ZZトップ)、ジェイ・グレイドン、スティーヴ・ルカサー、ビル・チャンプリン、レイ・パーカーJr.にタワー・オブ・パワーの面々、ネイザン・イースト、シャナイア・トゥエインにリアル・シングほか。こうしたリリース情報を見て、何じゃこりゃ?、と思った方、多いんじゃないだろうか? しかも2月末が配信スタートなのに、フィジカルはなかなか入荷しない。いろいろ謎が多い作品だったのだ。4月に入ってそれがようやく入手できたので、現物を手にして分かったこと、推察したことを書いておきたい。

まず先に断っておくが、全盛期の看板ファルセット・シンガー:ラッセル・トンプキンスJr.は、04年にニュー・スタイリスティックスを立ち上げ、本隊とは別に活動中。現在のスタイリスティックスは、オリジナル・メンバーのエアリオン・ラヴとハーバート・ムレルに、2011年加入のジェイソン・シャープという3人で活動している。でもってこのアルバムでは、2枚組全21曲のほとんどで、本作プロデューサー/メイン・ソングライターであるトム・クリッドランドが実質的4人目のシンガーとしてバック・ヴォーカルに参加。うち6曲では、この名門ソウル・ヴォーカル・グループを半ば乗っ取り状態に置き、白人にも関わらずメンバーを差し置いてリード・ヴォーカルを取っている。

しかも、そのファミリーと思しきデボラ&ジョナサン・クリッドランドがエクゼクティヴ・プロデューサーで。よく見れば、レーベルはGreatest Music of All Timeというお初の所で、CD番号がGREATECD1。おそらくは、クリッドランド・ファミリーが立ち上げたレーベルの初リリース、というコトなのだろう。わざわざ2枚組にしたのも、スタイリスティックスに乗るカタチで、無名のトムが歌う曲をフィーチャーするためだったんじゃ?、なんて勘繰ってしまう。しかもコレが大して上手くない… 結構イイ曲書いてるのに、もしかしてプロデューサー兼実質的スポンサーの専横、というヤツですかぁ〜

サウンド・メイキングを手掛けるのも、ジャスティン・ウッドワードとアンソニー・キングというこれまた無名の2人。でも打ち込みはあまり使わず、生のリズム・セクションを起用している。しかもそれがまた、ナイジェル・オルソン (ds) とデイヴィー・ジョンストン (g) というエルトン・ジョン全盛期のバック・バンドで、亡くなったベースの代わりはマット・ビソネットが務める。

そこで作曲陣を見ると、<Yes, I Will>がカントリー系人気シンガー:シャナイア・トウェインの提供(ゲスト・ヴォーカルも)。そこにスティーヴ・ルカサーとレイ・パーカーJr、ネイザン・イーストが参加している。また<Whatever Happened to Our Love>はビル・チャンプリンとサックス奏者トム・サヴィアーノの共作で、スタイリスティックスとビル、ドラムでも参加のナイジェル・オルソン、そしてUKソウルのリアル・シングという面々がリード・ヴォーカルを繋いでいく。ビルはもう1曲<Rock and a Heartbeat>を提供し、こちらではオルガンとバック・ヴォーカル(with タマラ・チャンプリン)を担当。ここにはタワー・オブ・パワー・ホーンズが参加し、T.O.P.というより、かなりシカゴっぽいラッパを聴かせる。イヤ、ホーンだけでなく、ヴォーカル含めトラック全体がシカゴっぽい仕上がりだ。

AORファンが気にするだろうジェイ・グレイドンは、<Who Am I >というバラードに参加。最初のギター・ソロはロニー・ウッドがヨレたスライドを聴かせ、2ndソロにジェイが登場する。比較的オーソドックスなプレイながら、ソロ後半はシッカリとギターをハモらせていて、思わずニヤリ。でもこのミスマッチ感、何なんでしょ 他にもトム・スコットがサックス・ソロを吹いていたり、パット・ブーンのクレジットがあったり。ツアー・メンバーを務めていた日本人ベーシスト:溝渕哲也も、1曲キーボードやアレンジ等で参加している。またドラマチックスからテンプテーションズを経てスタイリスティックスに加入し、18年から昨年までメンバーだったバーリントン ・“ボー”・ヘンダーソンが、数曲に参加しているのも嬉しい。これはおそらくボーの在籍中にレコーディングされたテイクなのだろう。

思うに、ソウル/R&B方面ではなく、ポップ・ロックに人脈が広いトム・クリッドランドの影響で、こういう陣容になった可能性がある。ミディアムやバラード中心の楽曲構成はスタイリスティックスらしいものだし、効果的にエレキ・シタールを鳴らしたりして、フィリー・ソウルの意匠を守る意図も窺える。サウンド的にはB級感が漂うものの、なかなか味のある楽曲が少なくないのだ。

でもコテコテのソウル・ファンからは、全盛期の頃からポップス寄りだと見下されていた彼ら。それがこういう顔ぶれに囲まれてしまったら、もはやソウル・グループというより、アダルト・コンテンポラリーのバラーディアーといった方がベターなのかも。実際そういうトラックが少なくないし、極論すれば、シカゴのパワー・バラードをスタイリスティックスが歌う、ってな感覚なのだ。だからAOR好きなら、それなりに楽しめちゃうだろう。でも正直ソウル・ファンは、かなり複雑な思いを抱くんじゃなかろうか?

何れにせよ、興味のある方はまずご試聴を。自分の気に入った曲だけを1枚のCDにまとめたら、結構イケそうよ。

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Falling In Love With My Girl
The Stylistics
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2025-03-21

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