peter gallwey-sahashi

『EN ~ Volume One』。つまり“縁”であり“円”。これはフィフス・アヴェニュー・バンドやオハイオ・ノックスなど、長きに渡ってシンガー・ソングライター的活動を展開してきたピーター・ゴールウェイと、ギタリスト/プロデューサー/アレンジャーとして現在進行形の日本のポップス・シーンを支えるサハリンこと佐橋佳幸の、初めての本格的共演アルバム。ライヴや各種スタジオ・セッション(TOKYO SESSIONS 1989 ほか)で交流を重ね、信頼関係を醸成してきた2人が、互いの思惑が合致したコトでワンステップ上のコラボレイトに踏み込んだのだ。

直接のキッカケは23年初頭、イアン・マシューズとのジョイント公演のために来日したピーターのショウに、佐橋が飛び入りしてギターを弾いたこと。久しぶりにじっくり話をしたところ、ピーターは日本にインスプレーションを得て書いた曲を複数持っており、それをカタチにしたいと考えていることが分かった。協力を申し出た佐橋との間で、まずはデータ交換から制作がスタート。そのうちピーターから「お前の曲はないのか?」と問われ、自分用にストックしていた曲を出すことに。こうして彼らの共演は、ユニット的な様相を呈し始めた。

一年超のリモート・ワークを経てカタチが見えてきたところでピーターが来日し、日本でスタジオ・レコーディング。集まったのは、細野晴臣/小原礼 (b), 林立夫/屋敷豪太 (ds), 矢野顕子 (pf), Dr.kyOn (kyd), 山本拓夫 (sax)、そして大貫妙子&松たか子 (cho) という豪華な顔ぶれだ。クールに言ってしまえば、佐橋人脈と捉えられるラインアップながら、細野さんやター坊はピーター直々のリクエストだという。これに僅かながらピーター人脈の取り巻きが加わった。

収録曲を見ると、<Shinjuku Neon><Tokyo To Me><Kyoto><Meiji Shrine><Decidedly Kabuki-cho>など、確かに日本をテーマに開いた楽曲が。<French Is Spoken Far From Here>は両人の共作で、<Nobody Can Save You>は日本語詞を交えた佐橋提供曲。この2曲はどちらも2人で歌っていて、なかなか味わい深い。また<And Now I Know What Nothing Is>には "For Patti Smith"とあって、思わずニヤリ…。

結構アルバム数の多いピーターだけれど、90年代後半からのインディ盤・自主制作盤の多くはOut of my line。弾き語りに毛の生えたような低予算プロダクツが多くて、あまり真剣に聴いてこなかった。曲は良くても、その先がなかったのだ。ビッグ・イン・ジャパンなんてヒネた褒め言葉があるけれど、この人の場合は、日本での人気もごく限られた世代、コミュニティーの間だけ。今でいうシティポップ先駆者たちの中に、山下達郎を始めとするフィフス・アヴェニュー信奉者がいたから、現在のこのポジションがあると言っていい。そのひとつのシンボルとしてこのアルバムがある。

結果、これまでのピーターになかったものが、この佐橋とのコラボによってピッタリ補強。落ち着いたゆったりグルーヴ、リラックスしたアコースティック・チューンが中心ながら、コトコト煮込まれた熟成サウンドがとても美味しく、自分の感覚で言えば、70年代の終わりに出した『ON THE BANDSTAND』『TOKYO TO KOKOMO』以来の好盤になったと思っている。メディア戦略的には、シティポップが〜、とか、サハリンの奥サン:松たか子が〜、とか、細野・矢野顕子・大貫妙子ら豪華メンバーが〜、と声高に触れ回りたいところだろう。でもそれで興味を持って寄ってきた人には、少々渋すぎる内容。だってこれは、相応に音楽を聴き込んで来た人だからこそ、その魅力が伝わる類いの作品だと思う。柱は迷うことなくピーター&サハリンの共演そのもので、あとはすべてプラス・アルファ。そういう聴き方が正しい。こうなったら、6月に予定されているライヴにも、ぜひ足を運びたいものよ。

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ピーター・ゴールウェイ&佐橋佳幸
ヴィヴィド・サウンド
2025-04-23

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