dusty springfield_longing

60年代に活躍した英国の女性ポップ・シンガー:ダスティ・スプリングフィールドの幻のアルバム『LONGING』(74年録音) が、ようやく日の目を見た。収録曲の一部はゼロ年代初頭に組まれた編集盤『BEAUTIFUL SOUL:The ABC / Dunhill Collection』で紹介されたが、発売予定だったオリジナルのフォーマットでリリースされるのはコレが初めて。ダスティといえば、69年にアトランティックから発表した『DUSTY IN MEMPHIS』がブルー・アイド・ソウル大傑作として知られる。が、評判の高さにセールスが追いつかず、失意の彼女は苦境の70年代を送ることになった。そういう節目に作られ、そしてお蔵入りしてしまったアルバムなのだ。

プロデュースは、当時ジャニス・イアンを当てていたブルックス・アーサー。収録曲には、そのジャニスが提供した<In The Winter>(本人版が75年『BETWEEN THE LINES』に)を筆頭に、マーサ&ザ・ヴァンデラス、ジャクソン5、バリー・マニロウ、コリン・ブランストーンらのカヴァーに、メリサ・マンチェスターのデビューを飾ったメリサとキャロル・ベイヤー・セイガーの共作曲、シェールが歌ったバリー・マン=シンシア・ワイル楽曲などがある。一部ヴォーカル未完成のトラックがあり、『BEAUTIFUL SOUL』の時に完成ヴァージョンを作ったらしいが、普通に聴いているだけではまったく気にならない。

レコーディングはニューヨークで、スティーヴ・ガッド/バーナード・パーディ (ds)、ゴードン・エドワーズ (b)、コーネル・デュプリー/ヒュー・マクラッケン/ジョン・トロペイ/アル・ゴーゴニ (g)、リチャード・ティー/ポール・グリフィン (kyd)、ラルフ・マクドナルド (perc) など、錚々たる顔ぶれが参加。バリー・マニロウやメリサも、自作曲でピアノを弾いたり、コーラスを取ったりしたようだ。

で、コレが、ABC / Dunhill への移籍2作目として、『CAMEO』に続いて世に出るはずだった。『CAMEO』というアルバムは、『DUSTY IN MEMPHIS』からの進化をアピールするシティ・ソウル的好盤で、スティーヴ・バリ、デニス・ランバート&ブライアン・ポッターと手を組み、新しい時代に斬り込むダスティの姿を披露していた。それゆえ、筆者監修『AOR Light Mellow Premium 01』でも、プレAOR的作品として注目し、掲載アイテムに入れている。ところがこの『LONGING』は、『DUSTY IN MEMPHIS』以前へと時代を遡っちゃったような内容。実力派作曲陣や新進ライターを揃えただけに、楽曲個々はまったく悪くないが、如何せん、アレンジが凡庸で、よくありがちなMORバラード・アルバムの域を出ていない。もしかしてアーサーは、ダスティにもジャニス・イアン路線を当てがおうとしたのかな。少なくても『CAMEO』の次に出すようなアルバムではなく、ダスティが途中で投げ出してしまったのも理解できる。

実際のところ、当時注目されていた新人シャイ・コルトレーン作の<Turn Me Around>、ホーランド=ドジャー=ホーランドが63年にマーサ&ザ・ヴァンデラスに書いて、アイク&ティナ・ターナーがUKヒットにした<A Love Like Yours>は、再度 United Artists に移籍して出したカムバック作『IT BEGINS AGAIN』(78年作)でリトライされ、『LONGING』のベーシック・トラックを流用して完成させたそう。後者はシングルにも切られているから、要はアーサーや編曲陣が分かってなかった、ということだろう。それなりに手を尽くせば、もっと良くなったアルバムだと思う。ちなみにカムバック第2弾『LIVING WITHOUT YOUR LOVE』は、デヴィッド・フォスターがジェイ・P・モーガンに書いた<Closet Man>をカヴァーしたりしている、L.A.録音のAOR系隠れ名盤。そういうキャリアの中に置いて判断すると、お蔵入りした経緯や理由が、何となく見えてくるな。

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