russell hitchcock_take time

エア・サプライのリード・シンガー、あのペパーミント・サウンドの特徴である伸びやかなハイトーン・ヴォイスで知られるラッセル・ヒッチコックが、ゼロ年代後半に発表した2ndソロ・アルバム『TAKE TIME』、オリジナル・ミックスで限定復刻。その輸入盤国内仕様の解説を書かせて頂いた。でもこのアルバム、自主制作だったこともあって、いろいろ謎が多く。エア・サプライ好きでも、初めてその存在を知った、なんて人が少なくないのでは…?

ラッセルのソロ作というと、グループが混迷期にあった88年に、アリスタで作られた初ソロ作『RUSSELL HITCHCOCK(虹に誓った恋)』が知られるところ。ラズベリーズやスリー・ドッグ・ナイトでお馴染みのベテラン・プロデューサー:ジミー・イエナー指揮の下、マイケル・ロイドやキース・オルセン、ロビー・ブキャナンらを制作陣に招き、キャロル・キングやアルバート・ハモンド、ビリー・ステインバーグ&トム・ケリー、ボーイ・ミーツ・ガールの2人など、売れっ子ヒットメイカーらが楽曲提供。ウォーカー・ブラザーズやモータウン・ヒットのカヴァーにも挑戦したが、セールスは芳しくなかった。でも当人がリフレッシュされたのは間違いなく、グループも心機一転、91年に新興ジャイアントへレーベル移籍し、『EARTH IS…』を発表。大ヒットとは行かないまでも、音楽的スランプから脱することに成功している。

対してこのラッセルのソロ2作目は、エア・サプライがライヴ中心の活動にシフトしてからのモノ。05年にレコーディングされ、翌06年に発売予定だったが、何らかの事情でお蔵入り(もしくは僅少限定流通)し、08年に再構築(ダビング追加やリミックスなど)を施して自主リリースされた。11年にも追加プレスされたらしいが、ツアー即売が目的だったか、ずっとニッチな存在だった。それをオーストラリアの再発レーベルMelodicRock Classicsが06年ミックスに戻し、復刻したのがコレである。

プロデューサーは、80年代中盤にエア・サプライに在籍していたベースのドン・クロムウェル。85年作『AIR SUPPLY(潮風のラヴ・コール)』では3曲をグラハム・ラッセルらと共作、インナー・スリーヴのグループ・ショットにその姿がある。今作収録曲もすべてこの人のペン(共作含む)。ボーナス曲<I Can't Stay Away>は、まさにその頃のエア・サプライのアウトテイクで、84年制作のデモ・テープが流用されている。資料によれば、このドン・クロムウェルは、90年代に日本でもリリースがあったL.A.のメロディアス・ハード系グループ:ランサムの中心人物だったらしい(知らんけど…)その後はエディ・マネーやジェニファー・ラッシュのブレーンとして活躍し、冒頭の<Never Say Never>も元々はジェニファーへの提供曲だった。

セッションにもクロムウェル人脈が多いようで、長くジョー・コッカーをサポートし、ロッド・スチュワートやティナ・ターナー、シェールらとも共演しているジーン・ブラック(g)が参加。自分の手元には初リリース時の08年版があるが、他にも数人ダビング参加しているミュージシャンがいて、エア・サプライ・ファンに寄せた、よりコンテンポラリーな仕上がりになっていた。

それがこの06年オリジナル・マスターは、臨場感溢れるラウドな音質が特徴。分かりやすくいえば、意図的に音圧を上げたメロディック・ロック仕様のミックスで、若干好みが割れるかもしれない。復刻に際して最新リマスターされたとはいえ、新しいアートワークもよくありがちなライヴ・ブートレグ風だし…。それでも、ごく少数の流通に止まったレア・アルバムをリイシューに持ち込んだのは、賛辞に値する。まずは、ラッセルにこんな作品があったことを広く知らしめるだけでも、意義は大きいな。

russell hitchcock_take timeTower Records で購入