nathan & noah east

元フォープレイ、長きに渡るエリック・クラプトンのサポート、L.A.きってのセッション・プレイヤーとしての実績、そして最近では松田聖子『SEIKO JAZZ』のプロデューサーとしてのポジションを固めている名ベーシスト、ネイザン・イースト。そのネイザンの息子で、新進気鋭のキーボード奏者であるノア・イースト。その初めての父子コラボレーション・アルバム『FATHER SON』がリリースされた。


自分が思うに、ネイザン・イーストというミュージシャンは、世界で最もバランス感覚に秀でた、最高峰のバイ・プレイヤーである。どんなフロントマンに対しても的確に寄り添い、求められる演奏を過不足なく提供する。 L.A.で成功するセッションマンは、ニューヨーク勢とは違って個性より柔軟性を重視される傾向が強いけれど、ネイザンはまさにその典型。しかも人当たりの良さも別格で、最初は意外に思えたクラプトンとの関係も、もう40年。ふと気がつけば、その周囲のミュージシャンでは一番の古株になってしまった。

そのネイザンがソロ活動に乗り出したのが、およそ10年前から。最初は、親しいセッション仲間を集めてゲストを乗せるスタイルの、よくありがちなリーダー作になるのだろうと思っていたら、意外に真剣なコンテンポラリー・ジャズ寄りの作品で。しかもライヴでは、弟ジェイムスをベースに据えたツイン・ベースのフォーマットで、ネイザン自身はリード・ベース的なポジションに。多弦ベースを弾くだけでなく、楽曲によってはエレベをウッド・ベースに持ち替えたりする。こりゃーうまいコト考えたな、と。その制作能力の高さ、アイディアの豊富さに加え、この手のプレイヤーに最も高いリスペクトを払う日本の音楽マーケットに分け入り、ヤマハ・グループを通じて世界リリースに繋げるという、音楽ビジネスに長けた処さえ印象づけた。その頃、軽く挨拶したことがあって、「ハ〜イ、ヒガシで〜す」なんて。受け取った名刺には、シッカリ “ネイザン・東・イースト”と日本語が書かれていたっけ。松田聖子のプロデュースに就いた時はサスガにチョッと驚いたが、ネイザンのことだから、さぞ上手く立ち回ったんだろうと納得できた。もちろん、音楽的にイイものを作れるのが大前提だけど。

これまでにソロで2作、ボブ・ジェームス、ジャック・リーそれぞれとの共演作を出してきたネイザンなので、この親子共演盤は、彼にとっては前に立っての5作目。それでも愛息を広く紹介するアルバムだけあって、ソロ2作に匹敵する気合いの濃さが感じられる。故に基本はノアをフィーチャーしたピアノ・トリオだったり、オルガン・トリオだったり。ヴァンプを差したビートルズ<Yesterday>のアレンジなんて、ちょっと唸ってしまいました。またノアはパット・メセニー信者らしく、ライル・メイズのソロ・アルバムから<Close To Home>(ギターはクラプトン)を取り上げたり、やはりメセニー信奉者で親子と親しいジャック・リーをゲストにノアの書き下ろしを演ったり。

またレイ・チャールズのカヴァー<Hard Times>では、エリック・クラプトンを大フューチャー。この曲、クラプトンは既に『JOURNEYMAN』でカヴァーしていた。でもそのヴォーカルがすごく味わい深くて、「クラプトンって、いつの間にこんなに歌が上手くなったんだ」と思っていたら、実はヴォーカルはビリー・ヴァレンタインで、クラプトンはギターのみ。ビリー・ヴァレンタインというのは、そう、シンプリー・レッド<Money's Too Tight>のオリジナルを歌っていたヴァレンタイン・ブラザーズの片割れで。かなり意識してクラプトンに寄せている印象だけれど、彼自身、23年に復活したフライング・ダッチマン・レーベルで『BILLY VALENTINE & THE UNIVERSAL TRUTH』というバンド名義のアルバムを出して、そこそこ評判を取っていたのを思い出した。

加えてスタンダード<Killer Joe>ではヒューバート・ロウズ、スティーヴィー・ワンダー作でアレサ・フランクリン版が有名な<Until You Come Back To Me>では、メリー・クレイトンがゲスト参加。ビー・ジーズ<How Deep Is Your Love>では、我らが松田聖子がネイザンのデュエット相手を務める。あぁ、なんて豪華なんざんしょ それによくよく見れば、盟友的存在のグレッグ・フィリゲインズに加え、トム・キーンがエンジニア、プログラム、キーボードで随所に参加していてニヤリ。

作品トータルの印象としては、息子の方はまだ、将来性の豊かさを感じさせる、といったレヴェルかと。その代わり、親父ネイザンによる熟練の制作手腕が目立っていて。ある意味、ネイザン流の帝王学(?)を愛息に経験させるような作品、と言える。スムーズ・ジャズ系の軽い作品ではないが、真面目なのに聴きやすい。それこそが、ネイザンのバランス感の賜物ではないかな。

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FATHER SON
ネイザン・イースト/ノア・イースト
Universal Music
2025-11-26

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