akira okazawa

これは年末に大きなプレゼントを貰った気分。日本のセッション・シーンの重鎮ベース奏者、岡沢章が率いるバンドのライヴ・アルバムがリリースされた。正式タイトルは、『P.S. I LOVE YOU 〜 Dedicated to Tsunehide Matsuki 〜 Live at Shinjuku PIT INN』。何かもう、この長いタイトルだけで伝わる人には伝わっちゃう気がするし、伝わっちゃった人には、“思った通りのライヴ盤” というだけで充分だと思えちゃう。でもそれだとポストの意味がないので、少しだけ掻い摘んで…。

現在は高中正義バンドのレギュラーを務める一方、芳野藤丸周辺や斉藤ノブ仕切りのセッションに頻繁に参加。その他、単発的なセッション・ワークは数知れない。そんな中、自分の名前を看板に掲げたのが、岡沢章BAND。他のメンバーは、盟友的存在の渡嘉敷祐一 (ds)、野力奏一 (pf) に、小池修 (sax)、三好“3吉”功郎 (g) の布陣となる。

このバンドの前身は、言うまでもなく、17年に亡くなった松木恒秀が率いていた WHAT IS HIP!。自分は高田みちこをゲストに迎えてのライヴを新宿PIT INNで何度か観たが、本物のミュージシャン・スピリットが交錯しているような、楽しくも熱いパフォーマンスだった。その松木が旅立った後、最も古い付き合いだった章さんがバンドを引き継いだワケである。 当時のWHAT IS HIP! には、アチコチからバンド・アルバムのオファーがあったはずだが、松木のポリシーだったのだろう、バンドとしてのレコーディングは一切行わず、一期一会のライヴ・パフォーマンスに全霊を傾ける、そんな集団だった。

おそらく岡沢章BANDとなった今も、章さんはその遺志を受け継いでいるだろう。だが今回は、松木さん共々長く世話になってきた新宿PIT INNの60周年。それ故のライヴ・レコーディングであり、リリースなのだと思う。収録は今年8月。

リード・シンガー不在だから、自ずとジャズ・フュージョン・カテゴリーのアルバムになるが、収録曲を見ると、歌モノ・カヴァーばかりをチョイスしている。そう、松木さんも章さんも、稲垣次郎&ソウル・メディア〜鈴木宏昌率いるコルゲン・バンド〜ザ・プレイヤーズ〜WHAT IS HIP!というジャズ系譜にいながら、実は歌モノが大得意。山下達郎の初期ライヴ『IT'S A POPPIN' TIME』も、ギター/ ベースはこの2人だった。しかも章さんは、ソウル・メディア時代の73年に『ギリシャについて書かれた本』というヴォーカル・アルバムを出していて、知る人ぞ知る作品に。自分も実際に耳にできたのは、2013年の初CD化の時。章さんの歌の巧さを知る人は、音楽ファンにもあまり多くなくて、吉田美奈子が『MONSTER IN TOWN』でデュエット相手に引っ張り出した時は話題騒然。でも聴いてみたら、メチャクチャにソウルフルで、プロ・シンガーとは違う実直この上ないスタイルで感動的だった。そしてその歌とドッシリした安定感のあるベース・プレイが、見事に一本の線で繋がっていると感じられた。

このライヴ盤も、実はその延長線上にある。収録曲を並べてみると…

1. One Trick Pony(ポール・サイモン)
2. Summer Soft(スティーヴィー・ワンダー)
3. Feelin' Alright(トラフィック/デイヴ・メイスン)
4. You Don't Know Me(レイ・チャールズ)
5. Home Meeting(渡辺貞夫)
6. De Pois Dos Temporais(イヴァン・リンス)
7. I Can't Help It(マイケル・ジャクソン)
8. That The Way Of The World(アース・ウインド&ファイアー)

このように、ほぼ歌モノばかり。ナベサダ曲も、歌うようなメロディだし。これは今サポートしている高中にも通じるところ。そして<One Trick Pony>や<I Can't Help It>は、インストにアレンジしながらサビではコーラスを取っていて、<Feelin' Alright>ではシッカリと歌っている。やっぱり、リアルな歌心があるから、グッと迫ってくるのだ。この曲はいろいろなカヴァー・ヴァージョンがあるけど、これはメイスン自身のライヴ・アルバム(76年『CERTIFIED LIVE〜情念』)が下敷きかしらね?

また<You Don't Know Me>では、三好“3吉”がギターと口笛のユニゾンを披露。いわゆるトゥーツ・シールマンスのパターンですね。3吉さんはトゥーツがアイドルだから、これは思わずニンマリ。最近じゃYAZAWAのサポートのイメージが強いが、90年代には村上ポンタ秀一とバンドを組んだりしてたヒトなのだ。

今、海外で火が付いてる日本のフュージョンは、アニメやネット絡みで超絶技巧のスペクタクルな演奏モノが多い。それはそれでイイけれど、アニメには興味の薄い自分にとって、長く心に残るインストって、こういう味わいのあるヤツなのだ。ライヴだから尺もたっぷり取られていて、各メンバーの見せ場・聴かせ処もふんだんに。最近はライヴ作品というと映像モノがデフォルトなので、そういう意味でもプレイに集中して聴ける超絶ナイスなライヴ・アルバムになっている。

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岡沢章BAND P.S. I LOVE YOU Decicated to Tsunehide Matuki
岡沢章
ピットインミュージック
2025-12-24

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