paul mccartney 026

ポール・マッカートニー、5年ぶりのニュー・アルバム『THE BOYS OF DUNGEON LANE(ダンジョン・レインの少年たち)』がイイ。リヴァプールで暮らした幼少期のことや、ジョン・レノンやジョージ・ハリスンと出会った青春期の回想を、今までになくストレートに歌い綴った内省的作品、というコトが話題だけれど、自分としては、このシンプルな音作りにすごく惹かれている。前作が『McCARTNEY III』だったけれど、その原点回帰を思わせるアルバム・タイトルは、今作にこそ相応しいと思う。

クレジットを見ると、Vocals, Electric Guitar, Acoustic Guitar, Bass, Piano, Harmonium, Harpsichord, Rhodes, Moog, Wurlitzer, Mellotron, Spinet, Organ, Recorder, Brenell Loops, Drums, Percussion と、全部で17の楽器をポールが自分で奏でている。省略しちゃえば、ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムス、パーカッションにリコーダーって感じだけど、要はほとんどの楽器を自分で演っちゃってる、ってコト。アディショナルで、共同プロデューサーでもあるアンディ・ワット、リンゴ・スター、クリッシー・ハインドなんて名があるが、リンゴとクリッシー姐さんは<Home To Us>でのデュエットとコーラス。弦や管のアレンジでジャイルズ・マーティンらの参加はあるが、他の演奏陣はホーン奏者程度だから、ポールはホントにほとんど一人でリズム・トラックを完成させちゃったワケだ。.

今ではさして珍しくもないホーム・レコーディング。だけどこのアルバムのミソは、本当に古〜い楽器を使っているところ。若いミュージシャンがヴィンテージ楽器を使うのは、たいていアナログ・シンセだったりするが、ポールの場合は上のクレジットにもあるように、メロトロンにハーモニウム、ハープシコードにスピネット(=小型チェンバロ)だよ。まるで60年代じゃん。しかもその録音の質感は、ソロ・ファースト『McCARTNEY』と同じテープ・レコーダーがひと役買っているらしい。

回想的内容だけに、曲の中にもビートルズの名曲を思い出させるフレーズや楽器が散りばめられていて、思わずニヤリ。83歳になって、もうこの先、何枚アルバムが作れるか分からないというトコロへ来て、終活ヨロシク、やり残したことをやっておこうという心境か。歌声はもうサスガに歳なりで、ファルセットもハイトーンもキツそうだ。だけどそれを修正してゴマかすんじゃなく、そのまま残している。虚勢や見栄を張るんじゃなく、80歳代の自然体。それがイイ。

ぶっちゃけ、名曲などと呼べるシロモノは、残念ながらココにはない。だいたい3分程度の小品集っぽい作りだし、それが今のポールには似合っている。でもここ数年のアルバム、『NEW』『EGYPT STATION』『McCARTNEY III』はいずれも、個人的に世間の評判ほど良いとは思えなかったし、そもそも『FLOWERS IN THE DIRT』以降、自分には心を寄せられるアルバムがない。『FLAMING PIE』と『CHAOS AND CREATION IN THE BACKYARD』が、まぁまぁ良かった程度かなぁ。でもこの『THE BOYS OF DUNGEON LANE』は、久々に親近感が湧くアルバムになっている。とても名盤とは言えないけれど、記憶と心をグルグルさせられる瞬間が、アチコチに潜んでいる。

来月で84歳になるポールだけど、今のコンディションならば、仲間やツアー・バンドの面々を集めて、それなりの体裁を整えてアルバムを作ることは、そう難しいコトじゃないはずだ。でも今しか創れない、今のうちに創っておきたいアルバムを作った。きっと、そういうコトなんだろうな…。

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