kimiko kasai_watching you

ソニーミュージックのジャズ系再発シリーズ【We Want Jazz】の第5期として、ジャズ・シンガー:笠井紀美子の14タイトルが高音質盤:極HiFi CD仕様で一気リイシュー。いま笠井紀美子といえば、シティポップ方面で再評価が進んだ『TOKYO SPECIAL』が一番人気だが、実際はオーセンティックなジャズ・ヴォーカル物からAOR、キレキレのダンス・ポップ作まで、かなり振り幅が広い。そんな中、82年『KIMIKO』、84年『LOVE TALK』、84年『NEW PASTEL』、85年『WATCHNG YOU』、計4作の解説を担当。82~84年の3枚は、以前、拙監修【AOR CITY】シリーズで復刻した時のライナーを加筆修正して転載。コレが初復刻となる『WATCHNG YOU』のみ、新規の書き下ろしライナーノーツになる。

この『WATCHING YOU』は純然たるオリジナル・アルバムではなく、彼女が以前に歌っていたポップ・スタンダード・ナンバーやオリジナル・チューンを、斬新なアレンジで再構築して新たにヴォーカルを乗せた、言わばセルフ・リメイク的スペシャル・アルバム。元々は、85年1月に都心の某ホールで4日間に渡って開催されたワンマン・パフォーマンス『笠井紀美子 1985』に用意された音源だった。

資料によると、このワンマン・イベントは、彼女が一人で衣装を替えながら十数人の女性を演じ分けるという、ファッション・ショー的要素のある舞台だったらしい。そのため音楽も超絶モダンな最先端スタイルが求められたようで、ジャズ・ファンの度肝を抜いた『KIMIKO』『LOVE TALK』『NEW PASTEL』のAORサウンドより、はるかにエッジィ。アルバム丸ごとデジタル仕掛けのダンサブルなライト・ファンクやハード・ポップにまとめられ、かつて歌った楽曲とは気づかないほど違って聴こえるシロモノなのだ。

チョイスされたのは、ジョージ・ベンソンでお馴染み<This Masquerade>、YUTAKAこと横倉裕の<Very Special Moment>、ランディ・クロフォードで有名な<Everything Must Change>、ロバータ・フラックの名曲<Killing Me Softly With His Song(やさしく歌って)>、映画『追憶』主題歌でバーブラ・ストライサンドが歌っていた<The Way We Were(追憶)>など。本人オリジナルでは、76年同名作からの<We Can Fall In Love>が一番ドラスティックに変貌を遂げた。そして唯一の新曲が、タイトル曲にもなっている<Watching You>。これはまるでケニー・ロギンスの全米No.1ヒット<Footloose>を髣髴させるモダンなロックン・ロール調ダンス・トラック。これがオープニングなので、当時はマジ、ビックリしたのを覚えている。

このキレキレなアルバムのアレンジとサウンド・プロデュースを仕切ったのは、『LOVE TALK』でも編曲を担当していたラリー・ウィリアムス。そしてラリーに近いダン・ハフ(g)、ジョン・ロビンソン(ds)、レニー・カストロ(per)、トム・ケリー/トミー・ファンダーバーク(back vo)など、L.A.のファースト・コールたちが脇を固める。ビート・ナンバーのエクスペリメンタルなアレンジは言うに及ばず、スロウ・ナンバーにも凝ったアイディアがテンコ盛り。でもそのバッキングを従えた紀美子自身が、一番イキイキとしているから堪らない。

この後、程なくしてジュエリー・デザイナーの道で進んで歌わなくなってしまうが、それがチョッと信じ難い、脂の乗ったアルバムなのよ。

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